2024/7「30分小説お題:「水」」
「どこまで視える?イロハ」
「うーん…少なくともこのフロアは全体的にこんな感じ…ああ、所々【深い】ところもありそうか」
「それはまた…困りましたね」
3階層目の入口。
目の前に広がるのは透明の塊。下ってきた筈なのに、割れた天井からは疎らに光が降っている。無造作に生える樹木の影を揺らす水面が様々な色を反射していた。
折れた白い石柱。似たテイストの崩れかけたガゼボ。白みがかった石壁が大きなフロアを仕切っている。
水深は浅く足首からふくらはぎ程度。透き通った水の底には飛び石のように続く石畳が確かに見えた。
「引き返して船でも持ってくるか」
「えー…ここまで担いでくるのは無理だよ。一階とか狭かったし」
「水中呼吸のポーションとか…」
「生憎手持ちにありませんし、買うとなるとそれなりの値になりますね」
クエルクス、ティトン、イロハ、コトワリと続いた会議は4人の唸り声で途切れる。数秒置いてイロハが控えめに進言した。
「部屋中央の造形物以外には、一応道が繋がっていそうだ」
「しかし浸水しているんだろう?」
「別によくないー?」
クエルクスのため息に声を被せたアロは、4人が振り向いた瞬間水中に降りる。
「普通に歩いていけばー?」
パシャパシャと楽しげに歩く彼の背中をポカンと眺めていた彼等のうち、コトワリが震えた早口で問い掛けた。
「ちょ…アロさん!軽率過ぎますその水が毒だったらどうするんですか」
「やだなーコトワリさん。毒っていうのはもっとどよーんとしてるものだよー?」
どよーんの不思議なジェスチャーに気を取られたコトワリがハッとした時にはすでに遅く。
「いえいえそういう問題ではなくてですね」
「まあまあ、とりあえず大丈夫そうだし、先を急ごう」
ティトンが軽快にアロの隣に並んだ。
「おいコラ、足元には気をつけろよガキ共」
続けてクエルクス、イロハも後に続く。呆気に取られたコトワリは頭をかきながら舌を出す。
「あの、少し待って頂けませんか?せめて靴下だけでも…」
「仕方ないなぁ…コトワリってば神経質なんだから」
靴を脱いで支度を始める彼をティトンがからかう。コトワリは靴下を脱ぎ、裾を捲りながら笑顔をしかめた。
「嫌でしょう?ぐずぐずの靴下とか…」
「気にならんな」
「素足に靴だとカポカポするしな…」
「ああもう…すみませんね脆弱なもので」
皮肉を吐きながら鞄に靴下をつっこみ、靴を履きなおす。そっと水に足をつけると丁度よい冷たさだった。
「みてみて魚ー」
先頭のアロがはしゃぐ。ティトンは泳ぐ魚を見てメモとスケッチをはじめた。
「戦闘になったら面倒だな。これじゃあ機動力に欠ける」
「所々水のない部屋に繋がってるから、そこまで引いて戦おう」
「誘導はお任せします。それより、きみたち泳げるんですよね?」
「あー、まあ、なんとかなるだろう」
「呑気すぎませんか?」
「いーじゃんいーじゃん、だってほら」
スケッチから顔を上げたティトンが前のアロを示す。更に先でアロが示すのは、部屋の中央に聳える沈む都市だ。
「最高にワクワクしない?」
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