第8話 くくくの香り

「あれ? なんか、花の香りがしない?」


Bが言った。


「そうですか? 僕は何も」


Aが言った。


「ここに花なんて生けてないよね……」


「残念ながら、そんな風流がわかる心は持ち合わせてないですね」


その日、カクヨムはサーバー攻撃を受けていて、接続が不安定だった。


「このままカクヨムが無くなったら、この災厄もなくなるんですかね」


Aがそう言うと、Bは鳩が豆鉄砲を食ったような顔をした。


「そ、それが早いのでは……?!」


「とはいえ、カクヨムを無くしたら、カクヨムに関わっている多くの人が悲しみますね」


「そうだけど……」


「次、接続復活したら、カクヨムが消える詩でも書いてみますか?」


「え、いや、それは……」


「まあ、カクヨムがダメなら、次はなろうとかTikTokとか、移っていくだけだと思いますが」


「だ、だよね。うん。カクヨムさえ無くせばいいって話じゃなくて。ところで、結局あいつらの正体ってわかんないの?」


「わかんないですね。人間じゃなさそうですが、仮に人間だとしたら、なんかすんごいのとつるんでるくらいしか」


「そうか……」


「ま、実際の人間もそうですよね。ネットの向こうの人がどんな人なのかなんて、わかるわけないっていう」


「そう、だよね……」


「あれ? 意外と、カクヨム生活気に入ってました?」


「え! あ、うん。PVが10くらいになってきて、♡つけられ始めたから……まあ、ちょっと嬉しいっちゃあ嬉しいよ」


「それは良かったですね」


「ちなみに、Aはカクヨムやってないの?」


「やってますよ」


「え! 言ってよ! なんで隠すの?」


「小説って、自分の内面の開示みたいなところがあるじゃないですか。さすがにBさんに見られるの恥ずかしいなって」


「あ、うん。そうだよね……。人の趣味だから、しょうがない」


「Bさんも、他の作品書いてみたらどうですか?」


「いや、いいよ。小説なんて、俺には書けない」


「タイトルは、『50日後に消滅する人類』」


「なんか、ワニの漫画でそんな感じのやつあったよね。それに比べても語呂悪いな」


「花の匂い、まだしますか?」


「……あ、しない。なんだったんだろ」



二人はカクヨムにアクセスし直した。


くくくが現れ、10分前に詩を投稿している。


………………


…………


……


お布団のにおい


味噌汁のにおい


お母さんのにおい


雨のにおい


木のにおい


砂のにおい


コーヒーの香り


ラベンダーの香り


パンケーキの香り


焼き鳥のにおい


タバコのにおい


ウイスキーのにおい


……


…………


………………


「嗅覚に異常が?」


「そうみたいですね。えっくちゅで、”お前のにおいは何?選手権”始まりましたよ。どうやらどこに行っても、何を嗅いでも、そのにおいしかしなくなるみたいです」


「俺は、花だったってこと?」


「かもしれません。でも、まず詩を書きましょう」


Bは、えっくちゅに上がっていく数々のにおいの様子を眺めながら、詩を考え始めた。



Aはメールを打つ。


『こちらにわずかに影響が出ましたので、感度調整お願いします』

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