第9話 けけけの物かたり

鉛筆くんはかわいそう


ガリガリ頭を削られて


消しゴムくんもかわいそう


ゴシゴシ体を削られて




「これ、俺の詩じゃん」


Bがけけけの投稿を見て言った。


「え、そうなんですか? Bさんは実は二重人格で、この災厄は狂言でしたってオチ?」


Aが言う。


「オチってなんだよ。いや、これ、小学生の時に書いたやつだな、って」


「さすが国語3」


「いいだろ小学生の時くらい、こんな感じで」


続きがアップされる。


………………


…………


……


道に生まれれば 穴ボコダラケダネ と言われ


食べ物になれば アレヨリ美味シクナイ と言われ


海外製品に生まれれば ヤッパリ安カロウ悪カロウダネ と言われる


………………


…………


……


「宮沢賢治を意識してますかね?」


「全然違うだろ! 謝れ! 賢治兄さんとそのファンに!」


「物の嘆きですね」


「ああ、物だって愚痴りたいときもあるよな」



………………


…………


……

 


流行リニモ負ケズ

物価高騰ニモ負ケズ

外国製品ニモ類似商品ニモ負ケヌ

オリジナリティヲ持チ


欲ヲ受ケ

決シテ文句ヲ言ワズ

イツモ静カニソコニアル


東ニ病気ノ子ドモアレバ

体内ニ入ッテ治シテヤリ

西ニ疲レタ母アレバ

ローラーデマッサージヲシテヤリ

南ニ死ニサウナ人アレバ

ソノ体ヲアズカッテ寝カセテヤリ

北ニ喧嘩ヤ訴訟ガアレバ

ソノ詳細ヲコノ身ニ書キ留メル


日照リノトキハカップラーメンガアルヨト言イ

寒サノ夏ハ辛イナベガ人気デ


皆ニ高イワネト言ワレ

感謝モサレズ

大切ニモサレズ


サウイフ”物”ニ

復讐サレル


……


…………


………………



「物の量がおよそ二分の一に、価格が二倍になってますね」


「そんな、生活に密着した災厄なの?!」


「まあ、人口の6%が消えたんで、この詩が無くても生産や流通に影響し始めるかもしれませんね」


「……油断ならないな……!」



Bは詩を書こうとシャーペンを手に持ったが、ふと、シャーペンの先を見つめた。


削られて、かわいそうなのか。


いや、違う、そのために生まれてきたのだ。


俺だって、まだわからないけど、結局は何かのために生まれてきたはずなんだよ。


……まだ、わからない?


いつ、わかる?


41日後には人類が絶えるかもしれないってときに、そんな悠長なこと言ってていいのか……?



「Aは……自分が何のために生まれて来たんだと思う?」


「え?」


「俺は……そういうのわかんないから、Aはどうなんだろうって……」


「僕は、この仕事のためにかな、って思ってます」


「……そんなにこの仕事が好きなのか?」


「好きとか言える仕事内容じゃないですけど、なんていうか、代わりがいないなら、それが自分の運命かと」


「嫌にはならないの?」



Aは無表情で沈黙した。



「嫌にはなりますね。でも、気づいてしまうんで。知らなかったことにできない性分なんです。でも良い人ってわけじゃなくて、ただ、自分の仮説を検証したいだけです」


「……なんか、難しいな……」


「Bさん、話は後にしましょう。歯ブラシが頬を突き破ってきたとか、複合機がこれまでの個人情報をでたらめにFAXしてるとか、物の反乱が起きてますよ」


「わ、わかった、頑張るから!」


Bは急いでノートを開いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る