「私が壊れる日」
「地球が終わる日、あなたは何をしますか」
教室が無音の静謐に染まるあまり、まるでここが世界の果てであるかのような錯覚をした。世界の終わりとはきっと、こんな景色なんだろうと思う。人も、物も、空気も、何もかもが押し黙り、時間だけがゆっくりとゆっくりと、ただ冗長に流れていく。
無音とは時に、思考を募らせる。私は明らかに君と対峙しているのに、その存在を認識しているはずなのに、まるで時間が止まったかのように感じられて、視界はずっとゲームのポーズ画面のまま。再開ボタンを押すまでには少し時間がかかった。
「これはまた、ずいぶんと高尚というか……考えさせられる談義だね」
す、となるべく自然に机の上で手の指を組み合わせる。考え事をする時は、このフォームが落ち着くんだ。
ずっと前からよくある話題ではある。地球最後の日、などというSFに一晩漬け込んで寝かせたみたいなSF王道のテーマ。
「先に君の考え、聞いてもいい?」
怖気付いた私は答えを保留にして、目の前に座る君へ視線を移動させる。君は少し驚いたような顔で、だけれどそっと目を細めた。その長いまつ毛の動きに目を奪われてしまう。
「その時は、あなたの隣がいいな」
はっと息を呑んだ。心臓が一瞬とまって、すぐに鼓動を再開させる。どくんどくん、不規則な拍動。なんと答えるべきか悩むうちに視界がぐらりと歪んだ。
「……わたし、も」
心臓に圧迫された喉からか細い声がでる。
「私も、君の隣にいたい。最後の瞬間までずっと、一緒にいたい」
私たちの間には何もなかった。何もあってはいけなかった。言葉も、熱も、繋がりも、存在してはいけなかった。物理的な何かは全て、見えないところに追いやって隠さなければいけなかった。
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