第30話

「そういう場所とは無縁の人間連れてってどーすんだよ。後々面倒起きたら俺がだるいじゃん。」


「そりゃ、オーナーはまだ亜主樹なんだから責任取るのも亜主樹でしょ。」


「な? 俺がだるいし後でアカネが不利益被るような事も避けたい。氷榁と一悶着あったらさすがに親父も関わってくるしな。」



また、一瞬だけあずき先輩の顔から感情が抜け落ちる。すぐに元の不機嫌を貼り付けたけれど。



「だから千夜子は連れてかない。」


「何のお店なんですか?」



栗生先輩を見上げて尋ねる。



「クラブ聞いたことない? 夜に若者が集まって騒いでるとこ。」


「な? お前が行きてぇような場所じゃねーだろ。」



たしかにあずき先輩の言う通り、私とは無縁だ。そんな時間があるなら私は勉強するか、睡眠をとりたい。



「でもあずき先輩夜は家にいる方が多いですよね?」


「経営ったって、俺売上の管理とか数字弄るのしかしてねーもん。店自体の管理は弟にさせてるし。」


「先輩のお店なのに?」


「建てたのは俺だけど俺のじゃない。」



あずき先輩が建てたけどあずき先輩のお店じゃない?


頭にハテナを浮かべる私に、栗生先輩が説明してくれる。



「亜主樹が年中反抗期の弟クンのために建てたお店だよ。」



なるほど。だから、お店の管理をしてるのが弟くんなんだ。



「兄弟揃って学生なのによくやりますね……高校生って結構大人なんですね。」


「弟は中学生だけど。」


「中学生に何やらせてるんですか?」



責任が重すぎやしませんか? あずき先輩の考えてる事はやっぱりよく分からない。



「だからまだ俺名義の店なんだって。」


「不思議な兄弟ですねぇ……」


「アカネは中学生感無さすぎるけどねー。」



先輩の弟はアカネくんっていうのか。



「俺だって中学ん時荒れてたし? あれくらい普通っしょ。」


「今も荒れてますよ。」


「これでも大人しくなった方なんですー。」



先輩が私の髪をくしゃくしゃにする。せっかく寝癖直したのに。



「ちょっと」


「お前には分かんねぇだろーけどさ、学校とか、普通の社会じゃ自由に生きられねぇ奴もいんだよ。」



そう言って笑った先輩の顔はどこか寂しそうで、でも何か言う前に一年生の方の玄関へと背中を押される。

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