第23話

「他は?」


「え?」


「他の科目。」



ああ、まだ教えてくれるんだ。



「……数学。」


「理系科目が苦手なのか」



キッチンから笑い声が飛んでくる。先輩は苦手じゃなかったのかな。



「得意なんですか?」


「まーな。」



へぇ。初めて知った。



「じゃあ、理系ですか?」


「うんにゃ、文系。」



理系科目が得意なのにどうして文系に? と聞こうとして振り返ると、キッチンに立つ先輩の表情は感情が抜け落ちたものに見えて。


私に気づいてすぐ「ん?」と首を傾げたから、一瞬しか見えなかったけど。


でも確かに、さっきの先輩の目はここを見ていなかった。この前の狂気とも違う、もっと深くて暗い色をしていたような。



「千夜子?」


「あ、えっと。なんで眼鏡掛けてるんですか?」



先輩が見せたそれに触れる勇気がなくて、私は話題を変えた。


踏み込むような関係性に立ってない。だから、気づかなかったフリをする。



「千夜子、お前眼鏡掛ける意味知ってるか?」


「馬鹿にしてますね。目悪いんですか?」



神妙な面持ちで聞いてくる辺りイラッとする。絶対分かっててなんでそういうこと言ってくるかな。



「多少な。生きてく上では全く問題ねぇ。」



私の前にカフェオレが入ったカップが置かれる。



「ありがとうございます。」



カップを手に取って、火傷しないようにそっと飲む。甘さと温かさがじんわり広がって心地いい。


ふぅ、と一息ついてちらりとあずき先輩を見れば、自分でカフェオレと言ったくせにブラックコーヒーを飲んでいる。甘いの苦手なのかな。


私はコーヒーは絶対にブラックじゃ飲めない。紅茶もできればミルクティーがいい。甘い方が好き。ココアは最高。


そういえば、ココアは選択肢に無かったな。残念。

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