5 家庭教師くらい真面目にやってください。
第22話
「千夜子さぁ、案外押しに弱いよな」
頬杖をついて私を馬鹿にしたようにケラケラ笑っているのはなぜか眼鏡スタイルのあずき先輩。
かなりラフな私服なのにカッコよく見える辺り、美形は得だと思う。
そう、ここはもはやお馴染みになりつつあるあずき先輩の部屋。
「騙しといてよく言いますね。」
「別に騙してないし?」
いけしゃあしゃあとよく言う。
栗生先輩が「迷惑料として教えてもらえばー」って言うから了承したけど。栗生先輩も私も「学校で」って意味で話してたのに、この男は授業が終わるなり私をここまで連れてきた。
「拉致ですよ。」
「何が。」
クスクス楽しそうに笑ってる辺り、確信犯だ。
「いーじゃん。こっちの方が時間取れるし。」
「……勉強してる間は何もしないでくださいね。」
「なんで?」
何かする気だったの?
無言で距離を取った私を見る先輩はやっぱり楽しそうで。
「俺がタダで教えるとか思ってる? 対価は払って貰うに決まってんじゃん。」
「迷惑料って話でしたが?」
帰ろうかな。
「冗談だっての。通じねぇ奴だなぁ。」
「全然冗談に聞こえないんですよ。」
「勉強してる間はなんもしねーよ。」
冗談じゃないじゃん!
もういいし。時間ももったいないし、問題集とノートを開いて先輩の隣に戻る。先輩がノートを覗き込んだ。
「物理基礎? 苦手?」
聞かれて、黙ってうなずく。
父親への意地から、私は絶対テストの成績は上位十位以内、あわよくば五位以内を目標にしている。
今のところ達成できてるけど、どんどん内容は難しくなるしバイトもあるし変なものに目をつけられたしで最近はちょっと焦ってる。
「ふーん。どこまで分かってる?」
「えっと……」
数十分後、自分が解いた問題で埋め尽くされたノートを見て、私は心なしか感動していた。
やっぱり教えてくれる人って大事だなって痛感する。
悔しいけどあずき先輩の教え方は分かりやすくて、散々悩んでいた問題がすんなり解けるくらいに理解できていた。
「自分でできるようになったじゃん。偉い偉い。」
私の頭を優しく撫でて、先輩は立ち上がる。「嫌じゃない」とは言ったけど、「好き」とも言ってないのに。
多分あずき先輩は私が頭を撫でられるのが好きなことと、どんな撫でられ方が好きなのかまで見抜いてる。
「何がいい? コーヒーと紅茶……うん、カフェオレかな。」
「なんで聞いたんですか?」
キッチンから聞こえてきた声はどう考えても私に尋ねるものだったのに、勝手に決める自由な人。
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