第20話

「なにすんだはこっちが言いたいですよ!? 貴方の貞操なんてどうでもいいですけどね、私の貞操をこれ以上脅かすのはやめてもらえます!?」



切れ長の瞳にじろりと睨まれたけど、私は図書室であるという事を最大限に配慮しつつふざけるなとあずき先輩に訴える。



「事実じゃん。」



それでも先輩はしれっと言う。


そんな様子を見てため息をついたのは栗生先輩だ。



「あのさぁ亜主樹。おれはお前の事咎めるつもりはないけど、さすがに同じ高校の子はやめといた方がいいんじゃない?」


「どこの奴だろうが変わらんだろ。」



私の教科書を勝手にパラパラめくって眺めているあずき先輩は、栗生先輩の話を聞く気がないみたいだった。



「はぁ。もう、全然集中できないので早くどっか行ってください。」



先輩から教科書をひったくる。どこ開いてたか分からなくなっちゃったじゃん。



「だいたい、先輩方も受験勉強とかあるんじゃないですか?」



何こんなところで油売ってんだという意味を込めて見れば、



「こんな時期から受験勉強すんのは馬鹿だけだろ。おせーよ。」


「おれ進学希望じゃないからねー。」



頬杖をついて呆れるあずき先輩と、にこやかな栗生先輩。進学希望じゃないからって理由は分かるけど、受験勉強は受験終わるまで続けるものでしょ。何言ってるんですか。



「そうだ、テスト勉強なら亜主樹に教えてもらえば?」


「嫌です」



オブラートに包む間もなく、ストレートに言葉が出てしまった。その解答の速さに栗生先輩は笑いを必死で抑えている。ここ図書室だからね。



「はっっやいねぇ、答えるの。」


「遠慮すんなって。手取り足取り教えてやるよ。」


「隣に女の子がいれば息をするようにセクハラかましてくる人じゃないですか。絶対手出してきますよね? お断りします。」


「はは、間違いない。亜主樹だもん。」



目尻に浮かんだ涙を拭いながら、「でもね、」と栗生先輩が続ける。



「亜主樹は試験で順位一位落としたことないよ?」


「嘘ですよね。」


「少しは信じろや。なんで全部疑いから入るんだよお前はよ。」



日頃の行いが悪すぎるからですよ。

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