第19話

図書室でテスト勉強をしている私は、今日も今日とてあずき先輩に絡まれている。いや、これはもう邪魔されているに近い。



「紅先輩」


「……」



どういうつもりなのか、この人は名前で呼ばないと絶対に返事をしてくれない。名前で呼ぶとそれなりの距離に関係があるみたいで、私は嫌なんだけどな。



「あずき先輩」


「何」



ほら。ちょっと面倒臭い。



「あの、気が散るというか。勉強の邪魔なんですけど。」



さっきから私の髪をくるくる指に巻いて遊んだり、隙あらば太ももを触ろうとしたりしてきて鬱陶しい。セクハラですよ。



「テスト勉強してるの見て分かります?」


「分かんない」



こいつ……。


隣を睨めば、顔をこっちに向けて机に伏せている美形。顔だけはモデルさんみたいにいいのになぁ。


どこまでも中身が残念過ぎる。


この前だって。


そう、この前。初雪さんとの会合の帰り道。街中で女の人と歩く先輩とすれ違ったこと。


その話についてどちらからも触れることはなく。わざわざ聞くようなことでもないけど。


元々そういう噂のある人だし、それを言及するような仲だとも思ってない。


所詮身体だけの関係。欲求を満たせれば良い先輩の、玩具の一つでしかない私。


だから学校で一緒にいることもないと思うのに。



「……千夜子さぁ」


「亜主樹こんなとこにいたー」



声の主を見れば、サラッサラの金髪を後ろに束ねた甘い顔の美形。耳のピアスが目立つ目立つ。いくつつけてるんだろう。



「なんだよ」


「お前、最近すぐどっか行くからさー。って、この子この前のお店のバイトの子? ほんとにうちの高校だったんだ……」



栗生先輩が私を見て目を丸くする。



「こんにちは」


「こんにちはー。おれ栗生拓。まさか学校で会うなんてねー。」



私に愛想の良い笑顔を見せながら、その視線が横にいるあずき先輩に流れる。



「どうりで最近お前の機嫌が良いわけだ。まさか、手出したりしてないよな?」


「出してるけど。」



言い終わる前に私は隣の人の足を思い切り蹴った。



「いッ……!? ナニすんだてめェ」

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