第18話

「少し顔色が悪いんじゃないのか?」



かけられた言葉が意外で、私はつい初雪さんをじっと見つめてしまった。


そんな事を言われたのは初めてかもしれない。



「最近寝不足が続いてるだけなので……お気遣いいただきありがとうございます。」



無難な笑顔を返しておけば大丈夫だろう。


案の定初雪さんは「そうか」とだけ言い、それ以上は追及してこない。わざわざそれを聞くためだけに来たの?



疑問に思う私に「では、また来月」と初雪さんは戻ってしまった。


本当にそれだけを聞きに来たみたい。いや、何か確かめようとしたけれどやめた、ってところかも。確かめたかったのはさっきの件かな。


私があっさり引き下がったのが気になった? 今さら?


今私はとにかく帰って寝たかった。バイトの入ってない休日の方が少ないから、今日のうちにたくさん寝ておこう。


来週何回呼び出されるのか分かんないし……。


初雪さんたちと別れた後、一人帰る私は欠伸を噛み殺しながら大通りから人通りの少ない方へ曲がる。


落とした視線の先から、ふと甘い煙草の匂いが鼻孔を掠め。少し顔を上げれば、赤錆色の頭髪の美形。


煙草を片手にスタイルの良い綺麗な女の人の腰を抱きながら歩く。


ただそれだけ。


すれ違う時に一瞬、闇色の両眼と目が合った気がしたけれど。


私は気づかないフリをした。

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