第16話

痛みが薄れた頃、先輩は割とすぐに私の中から自身のものを抜いてくれた。圧迫感から解放された私はなぜかまた先輩に抱き締められて頭を撫でられている。



「あ、あの、紅先輩?」


「さっき言ったろ」


「……あずき先輩?」


「何」


「なんで、撫でるんですか?」


「嫌?」



嫌、ではなかった。懐かしくて、気持ちがよくて、お母さんを思い出す。でもお母さんのものとは違う、大きな男の人の手。



「嫌……じゃない、です。でもなんで?」


「んー……ご褒美? 今日は俺の挿れられただけでも上出来。」


「今日は?」



今日はって何。どういうことなの。



「これで終わりじゃないんですか。」


「なんで」



なんでって、だって噂ではそういう話じゃないの?



「ほとんどの人とは一回しかしないんですよね?」


「千夜子、お前俺の話聞いてた?」


「いつの……」


「俺は男を知らない女のコを快楽に堕とすのが好きだって言わなかったか?」



そういえば昼にそんなことを言っていたような……



「……ほんとに最低で悪趣味な人ですね……」



私が睨むと悪びれもせず先輩は笑いを漏らす。



「だからさ? これからたっぷり時間かけてお前も堕としてやるよ。俺に溺れさせて、戻れなくしてやる。ま、単純に気に入ったってのもあるけど。つーわけでよろしくな? 千夜子ちゃん」



どこかうっとりとした表情で私の頬を撫でる先輩の中に、昼間見たような狂気を私は感じていた。


薄々感じていた危機感が確信に変わり始める。


私はとんでもない人と関わってしまったのかもしれない。

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