パイロット版 管楽器泥棒と時間怪盗2/2
廊下は人間がすれ違える程度の広さしかなく殴り合いに向いている。
殴れば攻撃が当たるほどに回避がしにくい。攻撃すれば当たるというのははっきりしていて良い。
「うおおおおおおお!!」
時間怪盗が遮二無二ナイフを振り回す。極彩色の
それを紙一重で避けていく。狭くても俺の方が相手より早いので避けられると納得してくれ。
「ならばこれはどうだ!?」
時間怪盗から爆音が鳴り響く。一瞬たじろぐ。
ナイフが俺の身体に当たる。
「何!時間が盗めない!?」
「時間硝子を使った装甲だ。何か複雑な理屈により効かないらしいぞ」
時間怪盗のナイフを持った手を捻る。相手はナイフを落とす。
落ちたナイフを蹴って遠くに飛ばし、相手が反撃してくるのに合わせて回し蹴り。
顔面に張り付いた赤いレンズが砕けて、時間怪盗の変身が解ける。
奪われた管楽器が廊下に落下し、依頼人の校長も膝を着く。形容しがたいが時間もレンズから解放され、元の持ち主のところに戻ろうと空中を浮遊している。
「アンタだったのか」
俺はメガネを外して変身を解き、拾ったナイフを向ける。
反抗する元気はないだろうが用心は必要だ。
「あの方から授かったレンズが……もっと女子中学生が口をつけた管楽器が欲しかったのに……」
あー。なるほどね。時間怪盗としての本業の合間に自分の趣味にエキサイトしていたわけね。時間怪盗の力を使えば結構色々できるからな。
「あの方って誰だ?男か女か?」
時間怪盗よりももっと上の人間がどんな奴か知りたい。
「分からない。お前と同じように赤いレンズのメガネをかけていた」
「それは知っている」
時間怪盗の登場と共にそれとなく逃げてもらっていたウイヒメ。それと警察が来た。
音楽室前でうなだれていた校長を警察が連行していく。
「お疲れさーん」
灰色のスーツに灰色のシャツを着て灰色のネクタイを付けた印象に残らなすぎて
逆に印象的な刑事が俺に絡んで来る。薄羽カゲロウ。俺の秘密を知っている一人だ。
俺が時間怪盗をぶちのめすのに使っている力について知っている。
「薄羽のおっさん」
「おっさんって言うなよ。キミ、みんなおっさんになるのだから」
「男の俺はそうだけど、女性はおっさんにならないっすよ時間が経過しても」
正直言うと俺は自分が何歳かも知らないが、自分はおっさんではないという気持ちで薄羽刑事をおっさん呼びしている。
「じゃあまた時間怪盗を見つけたら知らせてね」
「ええもちろん。善良な一般市民として」
こんな夜遅くまで仕事をしている未成年が善良な一般市民か考えながら、ウイヒメを見た。ウインクで誤魔化された。
俺は仮面バトラーだ。仮面を被り、『お嬢様』を守護する者。自分の身一つで砂浜に打ち上がっていたところをウイヒメの父である破嵐レイジに拾われた。その後、色々あって俺は探偵助手としてレイジの仕事を手伝ってきたわけだ。
そして、レイジが俺と同じような赤いメガネの者に殺された。俺が仮面バトラーであるようにレイジの仇も仮面バトラーだろう。俺は仮面バトラーについて知らなきゃならない。時間怪盗が付けている赤いレンズが何なのか、俺は何者なのか。ウイヒメを補佐し、レイジの仇を討たなきゃならない。世話になったからな。
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