【パイロット版】仮面バトラーレンズ

筆開紙閉

パイロット版 管楽器泥棒と時間怪盗1/2

 時間怪盗によって人々の時間が盗難される日本。

 警察は時間怪盗に全く対策できずに居た。時間怪盗は時間を操作できるからな。しかし時間怪盗の脅威に脅かされる中でも人々の生活は続く。

 仮面バトラーと呼ばれる者たちがいる。仮面を被り、『お嬢様』を守護する者である。そして何より彼らもまた時間怪盗のように時間を操作することができる。

 前置きが長くなったな。




 いまいちパッとしない曇り空の夕方。もう依頼人は来ないだろうか、看板を少し早いが閉店クローズドにしようかと話していると、我ら破嵐探偵事務所に依頼人がやって来た。

 俺はすっかり店仕舞いの気分だったんだが、まあいい。


「管楽器ねぇ」

「まさに管楽器なのですよ」


 我が雇用主の破嵐ハランウイヒメが依頼人から仕事を頼まれている。

 ウイヒメは黒髪をセミロングに伸ばしていて、小柄な身体をオーダーメイドのスーツに身を包んでいる。赤いカチューシャヘアバンドがよく似合っていると思う。そして何より同年齢と比べてもなお小柄である。未成年ということを抜きにしても背が低い。俺が横に並ぶと親子みたいに見える。

 しかしまあ、未成年にして探偵事務所を経営し、俺をこき使うことができることからわかるように彼女は人並み外れて優れている。海外の大学を飛び級で卒業してきたらしいしな。


「盗難届は警察に出していますが、警察は他の事件で手がいっぱいらしく、ここは探偵殿にお願いしたく……」


 依頼人は小太りな男性で、中学の校長をしているらしい。

 彼が勤める中学の吹奏楽部から管楽器が夜な夜な盗まれているそうだ。ここ数日間毎日少しずつ。そして依頼人は俺の方にツラを向けている。


「あの依頼人サン、自分ではなくこっちの小さいお方が探偵なンですよ」


 俺は破嵐探偵事務所に助手として雇用されている労働者の一人で、探偵たる者はウイヒメだ。だからウイヒメの方にツラを向けて話すべきだろうよ。


「なんと失礼を。野に咲く花のように可憐でして、勘違いしてしまいました」

「ツラが良いと言われるのは嬉しいものだね。まあいい。現場を見に行こう」


 俺はこの依頼人の校長殿がウイヒメのことをその見た目や年齢から舐めたように受け取った。だが、ウイヒメはスルーした。まあいい。ウイヒメがその見た目と年齢から依頼人にあなどられるのもいつものことだ。

 俺たちは犯行現場に向かった。犯行現場は私立の中学らしく警備も厳しい。俺が不審者と勘違いされて警備の方に絡まれる。さすまたが突き付けられる。


「本校も時間怪盗被害が出ていまして、警備を厳しくしているのですよ」


 依頼人が俺に説明した。時間怪盗に常人が対抗する手段はない。

 いやあるにはあるが、俺はオススメしない。自分の時間を盗まれる前に逃げることをオススメする。


「さすまたで時間怪盗を相手するのは無理っすよ」

「安全ではなく安心のためですよ」


 安全ではなく安心、何も備えがないと生徒や保護者が不安になるからってわけか。それが分かっていてそう口にする神経は見習いたいものがある。ずいぶん太そうだ。

 



 音楽室に到着した。


「鍵は交換していますかね」


 俺が依頼人に確認する。


「いいえ。鍵の交換に業者を呼ぶよりも早く毎晩盗まれています」

「なるほどねぇ」


 管楽器が収納されている音楽室は使用時以外は施錠される。しかし鍵に損傷は見られない。これは。ウイヒメの方を向く。考えることは同じようだった。

 内部の人間の犯行だ。


「依頼人殿、今晩で捕まえてみせましょう」


 ウイヒメは中学の中で待ち伏せして捕まえる腹積もりのようだった。

 未成年が夜遅くまで働くのはどうかと思ったが、ウイヒメがやる気ならやらせるしかない。


「おお。それは有り難い」


 依頼人のリアクションは薄かった。本心としては別に有り難くもないが、立場上嬉しそうにしなければならないようなちぐはぐな雰囲気だ。くっそ怪しい。




「色」

「ロバート秋山」

「マリアナ海溝」


 そんなこんなで夜。俺たちは泥棒がやって来るまでしりとりをして時間を潰していた。


「来たよ」


 ウイヒメが何かに気づいた。


「ああ」


 音楽室の周囲の廊下で待ち伏せをしていると管楽器泥棒が来た。蛍光灯も点いていない廊下に赤い光が輝く。あれは間違いない。

 時間怪盗だ。

 黒いゴム製のような見た目の全身スーツ。その顔面に赤く輝くレンズが一つ装着されている。また両手の指は管楽器の集合体のようなっている。また腰に巻き付きベルトのようになっているものや肩から突き出ているものもある。盗んだ管楽器が融合しているのか?


まかり通る!」


 時間怪盗が廊下を疾走する。常人には反応不可能な速度だ。時間怪盗は時間を操作できるので常人は一方的に時間を盗まれるだろうよ。


「そうはさせねえな。着装」


 俺が念じると俺の頭部に赤いレンズを嵌めた銀縁メガネが現れた。メガネを中心にして黒いスーツが全身を包み、更にその上に半透明の赤い装甲と白い仮面が現れる。仮面はガスマスクを白く塗っただけのように見えるらしい。そして最後に黒いシルクハットが頭部に現れる。

 時間怪盗よりは多少豪華な見た目だと思う。この姿で鏡をまじまじと眺めやしないのでよく分からないが。


「そのグラスは!?」


 時間怪盗が俺のメガネに反応する。ああそうだな。時間怪盗の赤いレンズと同じものだからな。


「怪盗あるところに我あり。しがない探偵助手さ」


 またあるいは仮面バトラーレンズと呼ぶ奴もいる。



 





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