第四章:魔物の再来

 集会場をあとにしたルミアとラトロスは、急いで魔物の声がした方へ向かった。

「あり得ない... もう魔物は三千数百年以上姿を消していたというのに、なぜこんなときに...!」

 走りながらも困惑を隠しきれない父の後を、ルミアはひたすら追いかけた。

 二人は村はずれの空き地についた。そこはつい一週間前に伐採・開拓が完了したばかりだった。

 魔物はそこに佇んでいた。

 六本の足で地面を踏みしめ、六つの紫色の目を不気味に光らせた巨大な灰色の狼が、二人の前にそびえ立っていたのだ。

 二人はあまりの恐怖に言葉を失った。

 二人のことに気付いたのか、怪物は二人の方に向き直ると、身をかがめた。大地も震えるような唸り声を上げ、魔物が二人に襲いかかろうとした、その時だった。

「おい、そこの化け物!父さんとルミアを喰いたいなら、俺を殺してからにしろ!」

 そう言い放ち、二人の背後の森から走り出てきたのは、ローダスだった。その手にはあの大斧が握られていた。

「ローダス!」

「お兄さん!」

 二人の声が重なる。

「ルミア!父さん!早く逃げろ!ここは俺が!」

「無茶だ!お前こそ早く...」

「俺にかまってる場合じゃないだろ、父さん!今は逃げて村のみんなを安全な場所まで...」

 ルミアの中で何かに火がついた。考えるより先に、ルミアは行動に出ていた。

「それは六足狼!」

「ルミア...?」

 ラトロスは娘の方を振り返った。ローダスも驚いた目でルミアを見つめた。

「六足狼は左胸以外にも右胸と腹部にも心臓がある。一つでも心臓が動いている限り六足狼は倒れない」

 ルミアは口早に説明した。そして、兄に叫んだ。

「私も助ける!だから...」


「魔物を倒して!」


 ローダスの目に闘志が燃え上がった。

「じゃあ、頼んだぞ...!」

 そう答えると、ローダスは魔物に正面から切りかかっていった。ルミアもすかさず魔法を放った。

「第六拘禁魔法・ラゴラヌスの地縛鎖!」

 そう言い放つやいなや、ルミアの右手が白く輝き、地面から四本の白く輝く光の鎖が飛び出した。四本の鎖は、六足狼の後ろ足四本に絡みつくと、魔物を勢いよく地面に縛り付けた。怒り狂った六足狼は、鎖から抜けだそうと、残った二本の足で本能的に前半身を持ち上げた。

 その隙を、ローダスは逃さなかった。

 勢いよく跳躍し、斧を振り上げると、ローダスは六足狼の右肩に強烈な一撃を叩き込んだ。斧の刃は魔物の肩の骨を粉砕すると、そのまま右胸の心臓を切り裂いた。黒い血しぶきが上がり、六足狼は痛みに吠えた。

 ローダスは怯まず攻撃を続けた。着地すると同時に地面を蹴ると、素早く斧の上下を持ち替え、魔物の腹の下へ滑り込んだ。

 体の下を覗き込み、動揺した魔物は顔を引きつらせたが、既に勝負はついていた。

「喰らえ...!」

 ローダスは叫ぶと、六足狼のみぞおちを斧の柄で勢いよく突き上げた。鈍い音とともに、魔物の巨体が地面から打ち上がった。足を魔法で縛られ、心臓を一つ切り裂かれた魔物に、もはや抵抗する術はなかった。力なく落下してくる魔物の腹に、ローダスの大斧が炸裂した。また血しぶきが上がり、腹の心臓が真っ二つになった。激痛が走り、六足狼は身を捩らせた。

「ルミア!」

 振り向いた兄に、ルミアはとどめの魔法で応えた。

「第一攻撃魔法・レーゼの槍!」

 ルミアが左手を突き出すと、手のひらに青白い光の塊が現れ、瞬く間に大きな槍となって、魔法使いの手から打ち出されていった。一瞬のうちにして魔物の左胸に風穴を開けると、光の槍は空の彼方に散っていった。

 魔物は最後の遠吠えをあげると、地面に倒れ、動かなくなった。

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