第6話 《目に映る信号は、赤》


  二週間ほど前から、真由美はイライラしはじめた。


 それでもなんとか仕事場では表面的に平静さを保っていたが、その反動は伸二の方に向いて走りだしてしまった。


 真由美は頻繁に伸二にメールを送った。


 内容は、ほとんどグチだった。


 真由美は、それに対して伸二からメールで返事がないと、何度でもメールを送り続けた。



 不満は伸二への攻撃に変わる。


 日に五回から七回、決まって真由美から伸二にメールがある。


 時には、別れ話を匂わすメールも送った。


 あまりにネガティブな事ばかりをメールしてくるので、嫌になったのだろう。


 五日ほど前から、伸二からのメールがパタリと途絶えた。


 真由美は、今日こそは電話で謝ろうと思っていた。


 心身共に不調だったこの二週間は、自家製の雲も霞と消えていたが、今日は創りだすことができて、本当にもう大丈夫だと思う。


 素直な気持で謝り、仲直りがしたかった。


 だから電話したのだ。



 それなのにあいつは勝手に携帯電話を解約してしまった。


 いや、昨日突然かかってきた電話で伸二は携帯を解約すると話していた。


 まさか、ジョークだと思った。


 そう、わたしも悪いのだ。あの時、素直に謝るべきだった。


 伸二は、理由は節約のためだと言っていたけど、それにしてもなんてタイミングが悪いのだろう。


 真由美は呆然と携帯電話を握りしめていた自分に気がついた。


 急に恥ずかしくなり、交差点を渡りだした。


 その途端、クラションの爆音がなる。


 真由美は急いで半歩下がる。


 横断歩道の白線から、エンジン音が堰を切る。 



 真由美の目に信号の赤が映る。


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