第7話 「俺がやってやろうか?」
裏の世界で過ごしていると、いつも気を張っている。そうしなければ、襲われた時に対処出来ず、殺されてしまう。
緊張が走り、殺伐としている裏の世界を、累は楽しいと思い生活していた。
それでも、疲れる時は疲れてしまう。
累の存在は、裏の世界では有名で、賞金までかけられていた。
だから、他の誰よりも狙われることが多く、体も心も休まらない。
そのため休みたい時は、表の世界の公園のベンチで寝るようにしていた。
今も、深夜の公園で一人、ベンチで寝ていた。
街灯に虫がたかり、冷たい風が吹く。
いびきをかいて寝ていると、公園に誰かが入ってくる。
黒いパーカーを着て、深くフードを被っている。
マスクもしており、誰なのか判別できない。
そんな人物の手には、銀色に輝くナイフが握られていた。
ベンチでまだ寝ている累に近付き、立ち止まる。
銀色に輝くナイフを振り上げたかと思うと、勢いよく累に向かって下ろした。
瞬間、累が目を開き、振り下ろされた手を掴み、ナイフを力を込め落とさせた。
「おいおい……。俺を襲ってどうする気だ」
欠伸を零しながら体を起こし、襲ってきた人を見上げた。
なぜ、油断し寝ていたはずの累が、こんな余裕で起き上がれるのか。
ナイフを振り落とした男性は、困惑する。
「顔、隠しているという事は、見られたくないんだよなぁ~?」
にやりと笑った累の右目は、赤い。
紅蓮の炎のように光る右目を見た瞬間、男性は体を震わせ、悲鳴を上げた。
そのまましりもちをつき、目の前に立つ累を見た。
妖しく笑っている彼の背後には、赤い着物を身に纏っている日本人形が、黒い髪を左右に広げ飛んでいる。
「ギャァァァァァアアアアア!!!」
駆け出し、逃げようとした男性の首根っこを掴み、累は口を塞いだ。
「おい、お前は何者だ? こんな夜更けに何をしている」
肩口から男性の顔を覗き込み、紅蓮の瞳を向ける。
燃え上がる右目を見て、男性は恐怖で失禁をしてしまった。
「うわっ、きったね!!」
反吐が出そうな顔を浮かべ、累は男性を投げ捨てた。
腰が抜けて立ち上がれないでいる男性に触れない程度に再度近づき、顔を近づかせた。
「おい。俺の質問に答えろ。なぜ、俺を襲った?」
再度、同じ質問をする。
男性は恐怖で何も言えない。
男性の股辺りのズボンが失禁により、じわじわと色を変える。
気持ち悪いなと思いながらも、累は逃がさず目を離さない。
答えるまで待っているかと思いきや、累は我慢の限界だというように深い溜息を吐き、右手を動かした。
ピクッと男性の身体が震える。
そんな男性の恐怖心など気にせず、男性の顔を隠しているフードを取った。
次にマスクも奪い取り、隠していた顔が露わとなる。
見た感じだと、三十代半ばの男性。
短い黒髪に黒目。そこら辺にいるモブだなと、累はつまらないというようにため息を吐いた。
「話せねぇの? なら、今までお前がやったことを、俺がやってやろうか? もちろん、お前相手に」
右の手の平を地面に向けると、濃い影がウヨウヨと動き出した。
男性が動けず黙って見ていると、黒いナイフが累の右手に作り出された。
男性の顔面に刃先を向ける。
「さぁ、どうする? 話すか? 殺されるか?」
累が聞くと、男性はやっと涙ながらに話した。
自分は、人の藻掻き苦しむ顔を見るのが好き。
夜分、一人で歩いている人を見ると殺し、苦痛に歪む顔を見て楽しんでいた。
ニュースにも取り上げられており、それをほくそ笑むのが最近の楽しみとなっていた。
それだけを聞くと、累はニンマリと笑った。
「そうか、ニュースにも取り上げられているのか。それは、いい情報をどーも」
「なら、俺を解放してっ――――」
――――ザシュッ
男性が安堵の表情を浮かべた瞬間、血しぶきが二人の周りに舞い上がった。
「――――え?」
「お前は俺にとっていい情報と、置き土産をくれた。だから、痛みを感じないように殺してやるよ。感謝しろよ?」
累の言葉は男性の耳に最後まで聞こえたのか、それとも聞こえなかったのか。
男性は白目をむき、地面に倒れ動かなくなった。
「ふぅー」
『ルイ。イイジョウホウ、ナニ?』
「あぁ、ちょっとな」
言いながら累は、ポケットから一台のスマホを取りだした。
検索画面を開き、『連続殺人 近日』と調べる。
すると、沢山の情報が画面にズラッと出てきた。
連続殺人にしか反応しないリンクまで出てきており、累は自分が調べたい情報だけを探し当てる。
画面をスクロールしていると一つ、気になるニュースを見つけ画面を止めた。
リンクを開くと、先週のニュースだった。
大見出しには、『連続殺人、これは意図的なものなのか!?』と、つまらない文字がゴシック体で大きく描かれ、その下には、殺害方法や、時間、被害者の身元などが書かれていた。
無言で見ていると、突如ニヤリと笑った。
「ナイフでめった刺しか…………」
呟くと、下に倒れている死体を見る。
目を細め、下唇を舐めた。
男性の影が、ウヨウヨとなぜか動き出した。
浮き出てきたかと思えば、複数のナイフが作り出される。
累は、目を細め、紅蓮の瞳を男性に向けた。
「こんな感じかねぇ~」
と、言いながら作り出された黒いナイフは、男性をめった刺しにした。
地面は赤く染まる。
血の湖が出来上がったところで、累は男性から興味をなくしクグツに向き直した。
「さぁてと。んじゃ、俺はもうひと眠りするわ。クグツ、もういっ――……」
クグツの体は、日本人形なので笑ったり泣いたりはしない。
けれど、纏う空気が累にはわかり、男性をあざ笑い楽しんでいたことを察してしまった。
用は済んだため何時ものように姿を消してもらおうとしたのだが、纏う空気に苦笑い。
どうしたものかと思っていると、道路の方から人の気配を感じ振り向いた。
そこには、深夜に出歩いているなどありえない人物が一人でいた。
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