第6話 「俺、負けねぇし」

「本当に、話がしたいだけですよぉ。この世界を作り出した神、神道導しんどうしるべとしてではなくぅ、君を育てた親として、ねぇ〜」


 神道導と名乗った男は、この裏の世界を作り出した創造主だ。


 自由な世界を欲し、なんにも捕らわれない世界を作りたく、創造主となったと累は聞いている。


 表の世界は安全で、生活がしやすい。

 だが、安全と言えど、人間には抑えられない衝動がある。


 表の世界では、何もかもを我慢して過ごさなければならない。本来の自分を出してはいけない。


 本来の自分に嘘を吐きながら、偽りながら生活をしなければならない。


 そんな世界を見てきた導は、考えた。

 何でも許される、裏の世界を作り出せばいいと。


 ここでは、犯罪は罪にはならない。我慢もしなくて良い。

 弱肉強食という言葉が具現化したような世界が、累の住む裏の世界であり、導が考える自由な世界だ。


「近況報告といっても、何にもねぇよ」

「復讐代行者としての仕事はいかがですかぁ? 楽しんでますぅ?」


 クスクスと笑いながら聞く導に舌打ちを零しつつ、累は素直に答えた。


「めんどくさいが、人間の業を真近で見れる唯一な職業かもしれないとも思っているぞ。それに関しては、普通に楽しい」

「それなら良かったですぅ。それでぇ? 今回の人間はいかがですかぁ? 復讐相手は、殺せそうですかぁ?」


 意味深な聞き方をする導に、累は唇を尖らせ、夜となった空を見上げた。


「わからん。まだ契約したばかりだ。調べてすらいねぇよ」

「ゆっくりしてますねぇ〜。急かされませんかぁ?」

「急かされたところで、俺は俺のペースを崩さねぇよ。やり方に文句があるのなら、契約を解除すればいいだけの話だ」

「そうすれば、契約者様を殺すではありませんかぁ」

「そういう契約内容を必ず最初に伝えてサインをもらっている。同意した依頼人が悪いだろ」


 累は、復讐代行者という怪しい仕事を生業としていた。

 内容は至ってシンプル、依頼人の復讐したい相手を殺すこと。


 人の命に関わる事を表の世界で行っている為、契約の際にはいくつかのお約束があった。


 一、復讐相手を殺すことを前提として考える

 二、報酬は、必ず前払いと後払いに分ける

 三、情報を洗いざらいに吐く

 四、累との出会いは他言無用

 五、契約破棄を申し出た場合は、命を狩られる。


 この五つに同意した人のみ、累が準備した契約書にサインを書いて、契約完了。

 累が何をしようと、どんな結末が待っていようと、復讐は成し遂げられる。


「表の世界で行っているのが、また面白いですよねぇ」

「裏の世界で復讐代行者をしても、どうせ殺し合いになるだけだし、それはそれでつまんねぇ。俺、負けねぇし」

「強いですからねぇ~」


 ケッと唾を飛ばす累に対して、やれやれと言うように肩を竦める導。


「依頼人の資料はありますかぁ?」

「あぁ」


 言いながら、一応その場で聞いた四季の情報と復讐相手の情報が書かれているぐしゃぐしゃな紙を取りだし、渡した。


「…………紙を持ち歩く際はぁ、このようにならないようにファイルに入れなさいと言っているのにぃ…………」

「読めればいいだろうが」

「読みにくいのですよぉ……まったくぅ……」


 ため息を吐きつつ、導は紙に目を通した。

 数秒で数枚の資料を読み終え、顎に手を当てた。


「なるほどぉ〜。これはぁ、少々楽しそうですねぇ」

「めんどくせぇよ」

「ふふっ、累からしたらそうですねぇ。では、今回は私が四季さんという依頼人の身の回りについて調べましょ〜」

「いいのか?」

「その変わりぃ、時を見てぇ、依頼人を裏の世界に連れてきてくださぁい」


 最後の言葉に、累は首を傾げた。

 そんな事を導が言うとは思ってもいなかったため、数回目を瞬かせる。


「目を丸くしないでくださぁい。少々気になるだけですよぉ〜」

「何が気になるんだよ」

「さぁ? なんでしょうねぇ〜」


 累の質問を軽くはぐらかし、導は立ち上がる。


「では、必ずですよぉ、累。時を見てぇ、必ず連れてきなさぁい」


 それだけを言い残し、瞬きをした瞬間に導は消えてしまった。

 残された累は、唖然としつつ銀髪をガシガシと掻き、「だぁぁぁぁああ!!」と、怒りを吐き出した。

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