第3話 ――――許せない。

 四季と友恵は、小学生からの友人。

 いつも一緒に遊び、何をするにも共に行動していた。


 持っている文房具は、出来る限りお揃いにし、髪型や服も揃えていた。


 二人は親友とも呼ばれる仲で、中学校も小学校の時と同じように、共に過ごしていた。


 だが、中学校まで上がると、一人の友達とずっと一緒という訳にはいかなくなった。


 友恵は、四季以外にも友達をたくさん作り、楽しそうに学校生活を送っている。

 逆に、四季には友恵以外の友達はいない。


 元々、友達を作るのが得意ではなく、人見知りをしていた四季は、友恵に甘えている自覚はあった。


 だからこそ、四季は自らクラスメイトに話しかけるように頑張った。

 だが、何故か誰も四季と話そうとしない。


 すぐに顔をそらし、話を切り上げどこかに行ってしまう。

 その時、何かを言っていたが、四季の耳には聞こえない。


 友恵以外のクラスメイトに拒絶されていると気づいた時から、四季は誰にも声をかけられなくなった。


 声をかけてもすぐに逃げられる。

 近づこうとすれば、距離を離される。


 原因も分からないため、改善しようがない。


 クラスで孤立してしまった四季だったが、そんな時でも友恵は変わらず接してくれていた。


 それが嬉しく、差し出された手を離したくないと思うようになった。

 友恵にも嫌われてしまえば、本当に一人になってしまう。


 そのため、もっと話したい、一緒にいたい気持ちを押し殺し、いつも四季は友恵と少し話して別れていた。


 変に引き止めてしまえば、うざいと思われ関わってくれなくなってしまうかもしれない。

 

 だから、友恵と話せない時は、気を紛らわせるため小説を読み、時間を潰していた。


 席はちょうど窓側で、目立たない場所。

 周りが楽しげに笑いあっている中、四季は一人、本を読む。


 そんな四季に、一人の男性が声をかけた。


 彼の名前は、白井結城しらいゆうき

 同じクラスで、黒髪と眼鏡で地味な印象だが、誰にでも気さくで話しやすく人気のある男子生徒だ。


 フレンドリーで、人と話すのが苦手な四季でも、すぐに馴染めた。


 友恵と共に居られない時、四季は結城と話すようになった。

 もちろん、いつでもという訳ではない。


 結城にも友達はいるので、いつでも四季と共に居る訳にはいかない。

 それでも、目が合えば笑みを浮かべ、手を振ってくれる。


 そんな彼に惹かれていくのに、そんな時間はかからなかった。


 中学二年の春、四季は勇気を奮い出して結城に告白をした。


 ダメもとでの告白だったが、なぜかすぐにOKと返され、無事に告白成功。

 嬉しさのあまり涙を流し、その日のうちに親友である友恵に報告した。


 最初は驚いていた友恵だったが、すぐに笑顔で喜んだ。


 その日はちょうど金曜日だったため、四季の家でお泊り会。


 なんで好きになったのか、どこを好きになったのかなどを聞かれ、四季は赤面しながらもゆっくりと話す。


 そんな、いわゆる女子会という時間を過ごし、次の日の朝。

 連絡先を交換していた四季のスマホにメールが届いた。画面を開くと、結城の文字。


 友恵に断りを入れて、メールを確認。

 内容は、デートの誘いだった。


 二人でメールを確認し、心から喜び合う。

 さっそくデートの時の服装を決め、髪をセットし、化粧も軽くした。


 濃い化粧をしてしまうと、逆に引かれてしまう可能性がある為、ナチュラルが一番という友恵のアドバイスだった。


 春なので少し肌寒い。肌の露出も控えた方がいいだろうということで、下はひざ丈くらいのスカート。上は、花柄の長袖シャツ。


 カーディガンを羽織り、髪はハーフアップ。

 白いリボンを付けて、準備は出来た。


 デートに出かける四季を友恵は、いつもと変わらない笑顔を浮かべて見送った。


 友達は出来なくても、二人がいればいいと心から思えた数日間だった。

 だが、その思いは、あっという間に崩れ落ちる。


 あんなに喜んでくれていた友恵が、まさか自分を裏切るなんて思っていなかった。

 四季は、憎悪、怒り、悲しみといった感情が溢れ出るのを止められない。


 半年付き合った彼から「君の親友が好きになった」と言われ振られてしまい、負の感情に押し潰されそうになる。


 本当に、突然だった。

 何の前振りもなく、なにも違和感はなかった。


 幸せだったから浮き足立っていたのかもしれない。

 二人の関係に、なにも気づかなかったのは。


 振られた次の日、友恵は結城と共に過ごしていた。

 楽しそうに笑っていた。

 頬に手を添えられ、友恵の顔は赤く染まる。


 恋をしている顔を、浮かべていた。


 昨日までは、自分がそこの立場だった。

 自分が、その手に触れていた。

 自分が、彼と一番近かった。


 なんで、そこまで急接近したのか。

 今までそんな素振りすら見せなかったのに。


 見ているのも辛い。でも、気になる。

 なぜ、振られてしまったのか。なんで、親友だと思っていた友恵に取られたのか。


 そんな時、友恵の話をしているクラスメイトの話が耳に入った。


「ねぇ、友達の彼氏を奪っておいて、普通あそこまで堂々とイチャイチャ出来るもの?」


「普通出来ないよね。でも、奪われても仕方がない気もするんだよなぁ」


「噂が本当なら、ねぇ」


 そんな話が聞こえ、四季は目をかすかに開く。


 ――――奪われても仕方がない?


 なぜ、そんなことを言われないといけないのか分からない。

 自分は、何もしていないのに。


 そんな気持ちに駆られ、感情のままに立ち上がろうとしたが、まだ二人の会話は続いており、動きを止めた。


「でも、まだ一日二日だよね? なんであんなに距離が近くなれるんだろう。もしかして、白井君、浮気していたのかなぁ?」


「あり得るねぇ~。結構、女癖が悪いっていう噂もあったし。もしかしたら、別れる前にもうやることやってたんじゃない?」


「うわぁ。下衆いねぇ」


 噂話を楽しむ二人は、四季が聞いていたことに気づかない。

 飽きたのか。そのまま話題は、違う話に切り替わった。


 立ち上がろうとした四季の手は、机の上から膝に戻る。


 ――――そっか、私は、もてあそばれていたんだ。友恵も、私の彼氏を寝取ったんだ。だから、まだ付き合ったばかりでもあんなにも仲睦まじい。


 そう思うと、心臓が締め付けられ息が苦しくなる。

 体が熱くなる感覚がわき上がり、恨みで充血した目を二人に向けた。


 ――――許せない。


 そんな感情のまま授業をさぼり、ふらふらと当てもなく歩いていると、陰影累いんえいるいと名乗る男性と出会った。

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