第52話 冷たい証拠

奈緒美と彩は、山川一郎との緊張したやり取りの後、再び雪山へと向かった。彼女たちは、佐藤明美が発見された場所を改めて調査することで、何か新しい手がかりを得られるのではないかと考えていた。冬の冷え込む空気が肌に刺さる中、二人は黙々と雪山を歩き続けた。


「この辺りよ。」彩はGPSデバイスを確認しながら言った。「遺体が発見されたのは、ちょうどこの辺りだったはず。」


雪に覆われた山道は静寂に包まれており、足元から響く雪を踏む音だけがその静けさを破っていた。奈緒美は周囲を注意深く観察し、細かな手がかりを見逃さないようにしていた。


「この場所が、単なる遺棄現場ではないことは明らかだわ。」奈緒美は低い声で言った。「彼女がここに連れてこられたのには、何か理由がある。」


奈緒美は地面に目をやり、雪を軽く払うと、凍りついた地面に何か異物が埋もれているのに気付いた。「彩、これを見て。」


彩が近づき、奈緒美が指さす場所を確認すると、そこには薄い金属片のようなものが半ば埋もれていた。奈緒美はそれを慎重に取り出し、雪を払いながらその形を確認した。


「これは…何かの装置かしら?」彩が首をかしげた。


「恐らく、通信機器か何かの一部だと思う。」奈緒美はその物体を手に取りながら言った。「明美さんがこの場所に来たとき、何かを記録しようとしていた可能性があるわ。この装置がその証拠になるかもしれない。」


二人はその場で装置を分析しようとしたが、雪と氷によってほとんどの機能が損なわれていた。しかし、奈緒美は装置の一部がまだ使用可能であることを確認し、それを持ち帰ってラボで詳しく解析することを決めた。


「この装置が、彼女が発見した何かの証拠かもしれない。」奈緒美は固く決意した。「山川一郎が何かを隠しているのは明らかよ。この装置がその真実を明らかにする鍵になるかもしれない。」


その後、二人は遺体が発見された場所をさらに詳しく調査し、周囲に残された微細な証拠を集め始めた。彼女たちは、雪の下に隠された足跡や、何らかの物が引きずられた痕跡を確認し、これらが事件の全貌を明らかにする手がかりになると感じていた。


「この場所で何が起きたのか、少しずつ見えてきたわ。」彩は地面に跪き、足跡の痕跡を確認しながら言った。「ここで何かが行われたのは確か。でも、その全貌を知るにはまだ足りない。」


「この雪が全てを隠しているようね。」奈緒美は周囲の白い景色を見渡しながら続けた。「でも、真実は雪の下に隠れている。私たちはそれを掘り起こさなければならない。」


奈緒美たちは、見つけた証拠を慎重に取り扱いながらラボへ戻ることにした。彼女たちは、雪山での調査が事件の全貌を解明する鍵になると確信していたが、同時に、これから直面するであろう困難を予感していた。


「この証拠が何を示すのか、ラボで解析しないと。」奈緒美は静かに言った。「でも、これが事件の真相に近づく第一歩だと思う。」


彩もその言葉に深く頷き、彼女たちは帰路に就いた。冷たい風が二人の頬を打つ中、奈緒美たちはこれから始まる戦いを覚悟しながら、村へと戻っていった。

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