第49話 凍える真実
深い雪に覆われた山間の村。その村にNDSラボから派遣された前田奈緒美と中谷彩は、冷え切った空気の中、厳しい冬の山道を進んでいた。彼女たちの目的は、数ヶ月前にこの村の近くの雪山で発見された凍結遺体の調査だった。
到着した村は、まるで時間が止まったかのように静まり返っていた。積もる雪がすべての音を吸い込み、遠くからかすかに聞こえる風の音だけが、静寂を破っていた。奈緒美はその静けさに、何か不穏なものを感じた。
「本当にここに人が住んでいるのか…?」彩は不安げに呟いた。
奈緒美は無言で頷きながら、村の入口に立つ古びた看板を見上げた。看板には、かすれた文字で「○○村」と書かれているが、雪と時間の経過によりほとんど読み取れなかった。
「ここが、遺体が発見された場所に一番近い村よ。」奈緒美は地図を確認しながら続けた。「村人たちが何か知っているかもしれないわ。」
彼女たちは村の中心へと歩みを進める。道端には雪に覆われた家々が立ち並び、窓からは薄暗い光が漏れていたが、その光はどこか冷たく、温かさを感じさせない。村全体が何かに押し潰されているような重苦しい空気に包まれていた。
村の広場にたどり着くと、一人の老人が雪を掻いていた。老人は奈緒美たちに気づくと、ゆっくりと顔を上げたが、その目には警戒心がはっきりと見て取れた。
「何か御用かね?」老人の声は低く、冷たい。
「NDSラボから来ました。私たちは、最近この近くの雪山で発見された遺体について調査をしています。」奈緒美は慎重に言葉を選びながら話しかけた。
「遺体…か。」老人は眉をひそめた。「そんな話、聞いたこともない。」
「ですが、報告ではこの村の近くで発見されたと…」奈緒美が説明しようとしたその瞬間、老人は言葉を遮った。
「そんな話、何も聞いていないと言っただろう。」老人の目が険しく光った。「余計な詮索はやめておけ。村のことには村の掟がある。」
その言葉には、何かを隠そうとする強い意志が感じられた。奈緒美はさらに質問を続けようとしたが、老人は背を向け、雪を掻く作業に戻ってしまった。
「何か隠してるのは明らかだね…」彩は小さな声でつぶやいた。
「そうみたいね。でも、簡単には口を割らないだろう。」奈緒美は深い息をついた。「この村には、外部に知られたくない何かがある。私たちはそれを突き止めなければならないわ。」
その時、遠くから風に乗って聞こえてきたのは、誰かが歌っているようなかすかな声だった。それは、まるでこの寒さの中、凍えた魂が泣き叫んでいるかのように、悲しみに満ちた音色だった。
「この村には、まだ何かがある…」奈緒美はその声に耳を澄ませながら、決意を新たにした。「私たちは、真実を見つけ出す。」
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