第48話 真実と選択の代償

施設内に響く銃声と緊張感が、奈緒美たちの体に重くのしかかっていた。高橋が用意したデータが無事に送信されたことを確認したものの、戦いはまだ終わっていなかった。佐伯の手下たちは執拗に奈緒美たちを追い詰め、逃げ場は少しずつ狭まっていく。


「全ては送信された。でも、ここからが本番よ。」奈緒美は冷静に、しかし決意に満ちた声で言った。


「ここで終わりにするつもりはないだろうな…」高橋は端末を操作しながら、施設内の構造を確認していた。「奴らは絶対に私たちを逃さないつもりだ。」


「それでも、村瀬が残した真実を私たちは守り抜く。」奈緒美は鋭い眼差しを前方に向け、慎重に進んでいった。


施設の奥へと進むと、遠くから警報音が聞こえてきた。これは、施設が外部からの侵入者を感知した際に作動するセキュリティシステムであり、施設全体の出入口が封鎖される兆しだった。


「佐伯は私たちを完全に閉じ込めるつもりよ…」彩は不安げに周囲を見渡した。


「全ての出口を封鎖するつもりだ。だが、それでも私たちは戦う。」奈緒美は冷静さを保ちながら、戦う覚悟を固めていた。


その時、佐伯の声が響き渡った。「君たちの努力は無駄だ。この施設から逃げられる者などいない。真実を手に入れたところで、世界を変えることなどできやしない。」


佐伯は、奈緒美たちを見下すように、冷淡な微笑を浮かべていた。「君たちが何をしようと、この計画は既に完成している。君たちが暴こうとする真実など、私たちの計画の一部に過ぎない。」


「それでも、私たちは戦う。」奈緒美は強い意志を込めて言い返した。「村瀬が守ろうとした未来を、私たちが受け継ぐために。」


佐伯は冷静に一歩前へ進み、部下たちに合図を送った。突然、施設の壁が動き始め、隠されていた通路が現れた。その通路は、奈緒美たちが入ってきた正面玄関とは逆の方向に続いていた。


「これは…?」高橋が驚きの声を上げた。


「逃げ場を与えたとでも思ったか?」佐伯は冷たく笑いながら言った。「この通路は私たちのために用意された出口だ。君たちがこの通路を進めば、待ち受けているのは…」


その言葉が終わらないうちに、奈緒美は決然と佐伯の目を見据え、「私たちは、自分たちの信じた道を進む。」と言い放った。


その瞬間、奈緒美は佐伯に向かって駆け出し、彩と高橋もその後に続いた。佐伯の手下たちが応戦するが、奈緒美たちは必死で戦い抜いた。廊下を駆け抜け、最後の一線を越えるために、全ての力を振り絞った。


ついに、奈緒美たちは通路の先にある最後の部屋に到達した。そこには、佐伯の計画に関わる全てのデータが保管されていた端末があった。


「これが…全ての真実…」彩は息を切らしながら、端末に表示されたデータを見つめた。


「これで終わりだ。」奈緒美は冷静に端末を操作し、全てのデータを公にするための最終手続きを行った。


しかし、その瞬間、佐伯が突如現れ、奈緒美たちに銃口を向けた。「これ以上はさせない。」


「佐伯…!」高橋が驚きの声を上げた。


「だが、もう遅い。」奈緒美は冷静に言った。「全ては公にされる。」


佐伯は怒りに満ちた表情で、銃を構え直した。しかし、次の瞬間、施設全体が震え、警報音が激しく鳴り響いた。佐伯の背後で何かが爆発し、彼の手元が揺らいだ。


「これが、村瀬が残した最後の罠だ。」奈緒美は冷静に言った。「あなたたちが計画を完成させようとした瞬間、全てを破壊するための装置が作動するように設計されていた。」


佐伯は驚愕の表情を浮かべながら、崩れ落ちる施設を見つめた。「まさか…」


「あなたたちの計画はここで終わりだ。」奈緒美は強い決意を込めて言い放った。


奈緒美たちは施設から脱出し、外の冷たい夜空の下で、施設が完全に崩壊するのを見届けた。彼らの戦いは終わり、村瀬が守ろうとした未来が、ついに守られたのだ。


---


事件が終結し、数週間が経過した。村瀬の意志を継いで、奈緒美たちは新たなプロジェクトを立ち上げ、過去の過ちを繰り返さないようにするための研究を続けていた。


NDSラボでは、奈緒美が新しいメンバーたちと共に、次の挑戦に向けた準備を進めていた。「私たちはこれからも戦い続ける。村瀬の意志を無駄にしないために。」


遠くの窓からは、穏やかな朝日が差し込んでいた。新たな未来に向けて、奈緒美たちは静かに歩み始めた。

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