第46話 崩れゆく仮面
廃墟の研究所を後にした奈緒美と彩は、再び車を走らせながら、今後の行動を考えていた。車内の静けさは、これから直面するであろう危機の大きさを示唆していた。先ほどのラボでの襲撃は、彼らがいかに追い詰められているかを痛感させ、今後の行動に慎重さが求められていた。
「今は一旦ラボに戻りましょう。今ある情報をまとめて、次の一手を考える必要があるわ。」奈緒美はハンドルを握りしめながら冷静に言ったが、その声には不安が隠せなかった。
「でも、相手が私たちの動きを完全に把握しているとしたら…」彩は不安げに言葉を続けた。「このままラボに戻るのも危険かもしれない。」
「分かってる。」奈緒美は短く答えた。「だけど、今は私たちにできる最善の手段を取るしかない。」
二人はその後、無言で車を走らせ、NDSラボへと戻る。ラボに到着すると、既に高橋が待っており、彼らを迎えた。
「大丈夫か?」高橋は奈緒美の顔色を見て心配そうに尋ねた。
「なんとかね。」奈緒美は深い息を吐きながら答えた。「でも、状況は悪化しているわ。私たちの動きを知っている相手がいる。ここも完全に安全とは言えない。」
「それならば、できるだけ早く証拠をまとめて公表する必要がある。」高橋は力強く提案した。「相手がこれ以上動く前に、私たちの方が先手を打つしかない。」
「そうね。」奈緒美は頷き、机に広げた書類を手に取った。「でも、その前にもう一つ確認したいことがあるの。この計画に関わっている人物、つまり、佐伯の背後にいる存在を突き止めなければ、根本的な解決にはならないわ。」
ここで、奈緒美たちはこれまでの捜査や調査の中で、佐伯圭一という名前が浮上していたことを思い返す。佐伯は以前、村瀬と共に極秘プロジェクトに関与していた人物で、プロジェクトの倫理的問題が発覚した際に、村瀬とは対立していた。しかし、佐伯はその後、何らかの理由で村瀬と疎遠になり、彼の存在が徐々に影を潜めていた。
「佐伯はずっと表に出ないようにしていたわ。村瀬が反対したときも、彼は黙って計画を進めていた。でも、その背後には彼の意図が隠されていたのよ。」奈緒美はそう言いながら、佐伯の名前が記された古い書類を見つめた。
「彼が村瀬の死に関与している可能性が高いとすれば、佐伯を直接追い詰めるしかない。」彩は緊張した表情で言った。
「その通りよ。でも、彼は単独で動いているとは限らない。背後に誰がいるのか、まだ完全には分かっていないわ。」奈緒美は言った。
高橋は頷き、彼の手元の端末に目を向けた。「解析が進むにつれて、いくつか新しい情報が浮かび上がってきた。佐伯の関与が深まるにつれ、その背後には更に強力な勢力が存在する可能性が出てきた。」
「その勢力が、佐伯を操っていた?」彩は驚愕の表情を浮かべた。
「そうかもしれない。」高橋は更に説明を続けた。「佐伯は表向きには計画のリーダーだが、実際には彼もまた大きな力によって動かされている可能性がある。」
「それが事実だとすれば、私たちが相手にしているのは佐伯一人ではないことになるわ。」奈緒美は緊張した面持ちで言った。「でも、その全貌を明らかにするために、私たちは更に深く掘り下げる必要がある。」
その時、ラボのセキュリティシステムが警告音を鳴らし始めた。高橋が急いでモニターを確認すると、建物の外に不審な人物が接近しているのが映し出されていた。
「どうやら、こちらの動きも察知されているようだな…」高橋は冷静に言ったが、その声には緊張が滲んでいた。
「ここに留まるのは危険だ。」奈緒美は即座に判断を下した。「証拠を持ってここを出ましょう。安全な場所で再度計画を立て直す必要がある。」
三人は素早く行動を開始し、必要なデータと書類を持ってラボを離れる準備を整えた。彼らは限られた時間の中で最大限の準備を進め、襲撃者が侵入してくる前にラボを出発する。
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外は既に深夜に差し掛かっており、冷たい風が彼らの頬を打っていた。車に乗り込んだ奈緒美たちは、再び次の目的地へと向かう。
「私たちが次に向かうべき場所は…」奈緒美は考えながら、高橋の持っていたデータを見直していた。「このデータが示す場所は、計画の最終段階に関わる重要な施設かもしれない。」
「その施設が、全ての答えを握っている?」彩が問いかけた。
「そうかもしれない。」奈緒美は深く頷いた。「でも、そこに行くには大きなリスクが伴うわ。私たちが全ての真実を明らかにしようとするならば、それは私たち自身の安全をも危険にさらすことになる。」
「それでも進むしかない。」高橋が言った。「ここまで来た以上、私たちは引き返すわけにはいかない。」
「その通りよ。」奈緒美は強い意志を持って答えた。「村瀬が守ろうとしたもの、それを私たちが受け継いで、最後まで戦う。」
彼らは再び沈黙の中で車を走らせながら、次の目的地へと向かっていた。だが、その先に待ち受けているものが、彼らにとって想像以上に恐ろしいものであることを、まだ誰も知らなかった。
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