第45話 見えざる真実の輪郭

夜の静寂がNDSラボを包み込み、室内の明かりが微かに彼らの顔を照らしていた。村瀬正弘が遺した手がかりをもとに、奈緒美と彩、そして高橋は、ついにこの事件の核心に迫る準備を整えていた。しかし、彼らが明らかにしようとしている真実は、思っていた以上に大きく、そして恐ろしいものであることが次第に明らかになってきた。


「これが最後のピースになるかもしれないわ。」奈緒美は村瀬の手記と解析されたデータを見つめながら呟いた。「でも、真実が私たちをどこに導くのか、まだ分からない。」


「村瀬の研究がこんなに深く闇に包まれていたなんて…」彩は不安げにデータを確認していた。「でも、私たちが見つけたものが真実であるなら、それは公にされるべきよ。」


「その通りだ。」高橋も頷いた。「このデータが示すのは、人間の遺伝子に対する極秘の操作だ。そして、それを裏で操っていた人物が誰なのか…それを突き止めなければならない。」


奈緒美は手にした書類の一つに目を留めた。「ここに書かれている名前…これは、このプロジェクトを指揮していた人物の名前かもしれない。もしそうなら、その人物が全ての鍵を握っている。」


「でも、その人物に近づくことができるかどうか…」彩は心配そうに言った。「彼らは私たちを警戒しているはずだわ。」


「それでも進むしかない。」奈緒美は決然と答えた。「私たちはここまで来た。今、引き返すわけにはいかない。」


その時、奈緒美のスマートフォンが鳴った。表示された名前に、彼女は一瞬戸惑った。それは村瀬の古くからの同僚であり、今回の事件の影で何度も名前が浮上していた人物だった。


「村瀬のことについて話がしたい…」その人物は低い声で言った。「今すぐ会ってもらえないか?」


奈緒美はその提案に一瞬の疑念を抱いたが、村瀬の死の真相に近づくためには、この人物の話を聞く必要があると判断した。「わかりました。どこで会いますか?」


「研究所の跡地で。今から30分後に。」短く言い放つと、電話は切れた。


「行くしかないわね。」奈緒美は彩と高橋に向かって言った。「何かが起こるかもしれない。だけど、これが全てを終わらせるための最後の手がかりかもしれない。」


二人は緊張の面持ちで頷いた。「気をつけて行って。」高橋が注意を促した。


奈緒美と彩は再び車に乗り込み、約束の場所である廃墟となった研究所跡地へと向かった。車内では言葉少なに、お互いに心の準備をしていたが、その胸中には強い決意があった。


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研究所跡地に到着すると、冷たい風が二人を迎えた。辺りは暗く、月の光が朧に地面を照らしていた。廃墟となった建物は静まり返り、まるで過去の影が今にも現れそうな雰囲気を漂わせていた。


「本当にここに来てくれるのかしら…?」彩が不安げに言った。


「来るわ。彼が私たちに伝えたいことがあるなら。」奈緒美は確信を持って答えた。「でも、何が起こるか分からない。十分に警戒しましょう。」


二人は懐中電灯を手に、建物の中へと足を踏み入れた。中は暗く、冷たく、かすかな音が響くだけだった。しばらく歩くと、遠くに人影が見えた。その人物は一人で、静かに彼女たちを待っていた。


「来てくれてありがとう。」低い声が廃墟の静寂を破った。「私は村瀬の同僚だった。彼のことを知りたければ、私の話を聞いてくれ。」


奈緒美はその人物に近づき、真剣な表情で言った。「村瀬の死の真相を教えてください。彼が命をかけて守ろうとしたものは何だったのか?」


その人物は深い溜息をつき、ゆっくりと話し始めた。「村瀬は、人間の遺伝子を操作することで、ある特定の目的を達成しようとした。それは、病気の治療法を見つけることでも、生命を延命することでもなかった。彼の目的は、選ばれた者だけが持つ特別な力を引き出すことだった。」


「特別な力…?」彩が驚きの声を上げた。


「そうだ。」その人物は苦々しい表情で続けた。「村瀬は、その研究が人類にとって危険だと気づいた。しかし、彼を裏切った者たちがいた。彼は、その研究を止めようとしたが、彼らによって命を奪われた。」


「その裏切り者とは誰なのですか?」奈緒美は問い詰めた。


「その人物は…」その人物が口を開こうとしたその瞬間、突然、銃声が響き渡った。奈緒美と彩は咄嗟に身を伏せたが、彼の体はその場に崩れ落ちた。


「どうして…?」彩は震えながら叫んだ。


「逃げるわよ!」奈緒美は素早く判断を下し、彩を引っ張ってその場から離れようとした。だが、建物の外からは何者かが近づいてくる足音が聞こえていた。


「まだ終わっていない…私たちは真実を掴むために、ここから逃げ延びなければならない。」奈緒美は決然と彩に言った。「行くわよ!」


二人は建物の裏手に回り込み、闇に紛れてその場を離れることに成功したが、彼女たちの心には深い不安と、未解決の謎が残されていた。

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