第44話 真実の断片

NDSラボに戻った奈緒美と彩は、廃工場で手に入れた村瀬正弘が遺した書類とUSBメモリを慎重に分析する準備を進めていた。ラボの暗い室内に蛍光灯の冷たい光が静かに広がり、彼女たちの緊張した顔を浮かび上がらせていた。


奈緒美は机の上に書類を広げ、彩と共にその内容を確認し始めた。「この手書きのメモには、何か重要なヒントが隠されているはず。村瀬が最後に残したメッセージが、ここにあるかもしれない。」


「でも、この文字、かなり乱雑だわ…」彩がメモを読み進めながら言った。「まるで急いで書かれたみたいで、解読するのが難しい。」


「それでも、この中に真実を解き明かす鍵がある。」奈緒美は決然とした表情で答えた。「村瀬が命を懸けて残した手がかりだもの、見逃すわけにはいかないわ。」


その時、高橋剛がラボに現れ、USBメモリの解析結果を持ってきた。「奈緒美、これが解析した結果だ。かなりの情報が詰まっていたよ。でも、その中には村瀬が誰かとやり取りしていたメールのログも含まれていた。」


「メールのログ?」奈緒美が興味を示す。


「そう、特定の人物と頻繁に連絡を取り合っていた形跡がある。」高橋はモニターに映し出されたデータを指差しながら説明を続けた。「ただ、その相手が誰なのか、まだ特定できていない。でも、彼らが何か大きな計画を進めていたのは確かだ。」


「それが『彼ら』と呼んでいた相手の正体かもしれないわね。」彩が不安げに言った。「この計画が村瀬の死に関係しているとしたら…」


「間違いないわ。」奈緒美は強く頷いた。「でも、その全貌を明らかにするには、まだ多くのピースが足りない。」


高橋はさらに解析を続けながら、画面に表示された一部の暗号化されたデータに注意を向けた。「このデータには、何か極秘のプロジェクトに関する情報が含まれているようだ。村瀬がこれに深く関与していた可能性が高い。」


「極秘プロジェクト…?」奈緒美は眉をひそめた。「それが村瀬を殺す理由になったとしたら…」


「このプロジェクトに関与していた他の人物も、危険に晒されているかもしれない。」高橋は深刻な表情で言った。「このままでは、真相を追求すること自体がリスクを伴うことになる。」


「でも、だからこそ、私たちは真実を明らかにしなければならない。」奈緒美は強い意志を込めて言った。「村瀬が命を懸けて守ろうとしたもの、それを暴くために、私たちは全力を尽くす。」


その時、彩が手にしていた書類の一部に目を留めた。「奈緒美、この部分を見て。ここに書かれている名前、どこかで聞いたことがあるわ。」


奈緒美が彩に近づき、指し示された部分を確認すると、その名前に驚愕した。「これは…村瀬が以前関わっていた研究者の名前じゃないか。」


「そう、でもそれだけじゃない。」彩はさらに深く掘り下げた。「この名前が、他のデータにも関連しているみたい。何か重大な秘密がこの人物に関わっている可能性がある。」


「それなら、その人物を探し出して、直接話を聞く必要があるわ。」奈緒美はすぐに行動を起こす決意を固めた。「その人物が、村瀬の死の真相を知っているかもしれない。」


「でも、もしその人物が真犯人だったら…?」彩は疑念を抱きつつも、その可能性を無視できなかった。


「それも考えられる。」奈緒美は慎重に答えた。「でも、私たちは事実を追求するために、リスクを承知で進むしかない。」


高橋はそのやり取りを聞きながら、再びUSBメモリのデータに目を向けた。「もう一つ気になることがあるんだ。このデータには、特定の場所が記されている。村瀬が何度も訪れていた場所みたいだけど、それが一体何のためだったのかは分からない。」


「その場所が、今回の事件のカギを握っているのかもしれない。」奈緒美は直感的にそう感じた。「その場所を突き止めて、村瀬が何をしていたのかを確認する必要があるわ。」


「分かった。すぐにその場所を調べてみる。」高橋はその場で調査を開始した。


その時、彩のスマートフォンが突然鳴り響いた。彼女が画面を見ると、未知の番号からの着信だった。


「奈緒美、これ…誰か分からないけど、どうする?」彩が不安げに尋ねた。


「出てみて。」奈緒美は冷静に指示した。


彩はためらいながらも、通話ボタンを押した。「もしもし…?」


「…あなたたちが何をしているのか、分かっている。」低く、冷たい声が響いてきた。「村瀬の死に深入りしすぎると、あなたたちも同じ運命を辿ることになる。」


「誰…誰なの?」彩が声を震わせながら問い返す。


「真実を知りたければ、これ以上深入りするな。」電話は一方的に切られ、彩はその場に凍りついたように立ち尽くした。


「何があったの?」奈緒美が彩に近づき、心配そうに尋ねた。


「…脅迫された。村瀬の死に関わる真実を追求するなって…」彩は震える声で答えた。


「誰かが私たちを監視している…」奈緒美はその言葉に強い不安を感じた。「でも、だからこそ真実を暴かなければならない。」


「でも、これ以上進めば、私たちも危険に晒されるかもしれない…」彩は恐怖を隠せなかった。


「それでも、村瀬のために、私たちは進むしかない。」奈緒美は決然とした表情で答えた。「どんな危険が待ち受けていようと、真実を追求する。それが私たちの使命よ。」

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