第42話 暗号と裏切り

NDSラボのメンバーたちは、村瀬正弘が関わっていた秘密の研究施設から無事に脱出した。しかし、彼らが持ち帰った遺伝子データは、そのままでは何の意味も持たない。奈緒美と彩、そして高橋は、それぞれの分野でこのデータを解明するために全力を尽くしていたが、その内容はますます不明瞭なものになっていた。


「高橋、この暗号は一体何を示しているの?」奈緒美は高橋と電話で話しながら、送られてきた解析結果を睨みつけていた。パソコンの画面には、解読途中の暗号化されたメッセージが並んでいるが、その内容はまだ不完全だ。


「解析は進んでいるけど、非常に複雑なコードが使われている。これを解読するには、かなりの時間がかかりそうだ。」高橋の声には少し焦りが感じられる。「ただ、このコードの中には、どうやら人間の遺伝子を操作するための特定の指示が含まれているようなんだ。」


「つまり、このデータが実際に遺伝子操作に使われていたってこと?」彩が驚いた様子で尋ねる。


「そうなる可能性が高い。」高橋はさらに説明を続けた。「でも、それだけじゃない。村瀬が関わっていたこのプロジェクトは、単なる遺伝子操作の研究ではなさそうだ。このデータには、特定の人物の遺伝子情報も含まれている。」


「特定の人物…?」奈緒美は眉をひそめた。「それってどういうこと?」


「まだ確定ではないけど、この人物が何かの実験に使われていた可能性がある。」高橋は慎重に言葉を選んだ。「その人物の遺伝子情報が何らかの形で改変されていることが、このデータから推測できるんだ。」


「でも、それが村瀬の死にどう関係しているのかが分からない。」彩は悩みながら言った。「村瀬がその人物を守ろうとしていたのか、それとも…」


「それを明らかにするには、まだ情報が足りない。」奈緒美は冷静に答えた。「この暗号を完全に解読して、その中に隠されたメッセージを読み取る必要があるわ。」


「もう少し時間が欲しい。」高橋はすぐに再解析を始めることを約束した。「この暗号を解くことが、全ての鍵を握っているのは間違いない。」


奈緒美は電話を切り、彩と共に解析が進むのを待ちながら、次の手を考え始めた。


「もしこのデータが人間の遺伝子操作に使われていたとして、その目的が何なのかが気になる。」奈緒美は独り言のように呟いた。


「もしかしたら、村瀬はその実験に反対していたんじゃないかな?」彩は推測を述べた。「だから彼は命を狙われた…」


「その可能性もあるけど、もっと深い理由があるのかもしれない。」奈緒美は更なる真相に迫る決意を固めた。「このプロジェクトが何のために行われていたのか、そしてその背後に誰がいるのかを突き止める必要があるわ。」


その時、再び電話が鳴り、高橋からの報告が入った。「奈緒美、重要なことが分かった。解析の途中で、どうやら村瀬が最後に残したメッセージが隠されていたんだ。それが、このプロジェクトの全貌を示す手がかりになるかもしれない。」


「メッセージ?」奈緒美はすぐに反応した。「それはどういう内容?」


「まだ完全には解読できていないが、『裏切り者』という言葉が頻繁に出てくる。そして、『真実は闇に消えた』とも書かれている。」高橋は慎重に言葉を選んだ。「村瀬が誰かを指して言っていた可能性がある。」


「裏切り者…村瀬は誰かに裏切られたの?」彩は驚愕の表情を浮かべた。


「そうだとしたら、その人物が今回の事件の真の黒幕である可能性が高い。」奈緒美は思案深く言った。「でも、村瀬が最後に残したメッセージが、私たちに何を伝えようとしていたのかがまだ掴めていない。」


「その裏切り者が、村瀬を殺したのかもしれない。」高橋は更なる推測を述べた。「彼が命を懸けて守ろうとしていた真実を、私たちが明らかにする必要がある。」


「そうね。」奈緒美は強く頷いた。「村瀬が残したこのメッセージを、必ず解き明かしてみせる。」


その瞬間、奈緒美のスマートフォンに新たな通知が入った。メールの送信者は、村瀬の死に関わる何者かからの匿名のものだった。メールには、村瀬が残したと思われる暗号化されたファイルが添付されており、解読が必要だと記されていた。


「これは…村瀬が何かを伝えようとしているのかもしれない。」奈緒美は画面を見つめながら言った。「このファイルを解読すれば、何か重要な手がかりが得られるかもしれないわ。」


「でも、これは危険な賭けかも…」彩が不安げに言った。「そのファイルが本当に安全かどうかも分からないし。」


「それでも、私たちは進むしかない。」奈緒美は冷静に答えた。「村瀬が命を懸けて守ろうとしたものを、私たちが引き継ぐためにも、このファイルを解読して真実を突き止めるわ。」


奈緒美と彩は、その場で高橋に再度連絡を取り、ファイルの解析を開始した。彼らは、村瀬が残した最後のメッセージと、これまでの手がかりを元に、事件の真相に迫ろうと必死になっていた。

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