第41話 隠された真実への手がかり

冷たい風が奈緒美と彩の頬を撫でる中、二人は森の中で一息ついていた。警報音から逃れ、ようやく外の世界に出られたものの、二人の頭の中にはまだ施設で見た光景が鮮明に残っていた。暗闇に包まれた森の中で、彼女たちは静かに次の一手を考えていた。


「施設から無事に出られたけど、まだ油断はできないわね。」奈緒美が低い声で言った。


「本当よ。あの遺伝子データって一体何だったんだろう?」彩は、先ほどのスクリーンに映し出された人間の遺伝子データを思い出し、背筋が寒くなるのを感じた。


「何か極秘の研究が行われていたのは間違いないわ。」奈緒美は冷静に答えた。「でも、その研究が村瀬の死にどう関わっているのか、まだ掴み切れていない。」


二人はスマートフォンを取り出し、高橋剛との連絡を再開した。無事に脱出できたことを伝え、次にすべきことを話し合う。


「高橋、施設の内部で遺伝子データを見つけたわ。でも、それが何を意味するのか、まだはっきりしないの。」奈緒美が報告すると、高橋はすぐにデータの解析に取り掛かる準備を整えた。


「そのデータをすぐに送ってくれ。解析が終われば、何か新たな手がかりが得られるかもしれない。」高橋の声は落ち着いていたが、奈緒美にはその裏に隠された焦燥が感じ取れた。


「分かった。データを転送する。」奈緒美はその場で遺伝子データを高橋に送信し、さらに施設内で見つけた他の手がかりも共有した。


「奈緒美、これがもし何か大規模な陰謀に繋がっていたとしたら…?」彩が心配そうに尋ねた。


「その可能性は高いわ。」奈緒美は答えた。「村瀬が命を落としたのも、このデータに関わっている何かが原因だと考えるべきね。」


「でも、それなら私たちも危険に晒されるんじゃない?」彩は不安を隠せない様子だった。


「だからこそ、早く全貌を解明する必要がある。」奈緒美は強い決意を持って答えた。「私たちはこの真実を追い求めるためにここにいるの。どんな困難が待ち受けていようと、逃げるわけにはいかない。」


その時、高橋から再び連絡が入った。「奈緒美、今受け取ったデータを解析しているんだけど、これは…相当やばいことになってるかもしれない。」


「どういうこと?」奈緒美が問い返す。


「この遺伝子データは、人間のDNAを改変する実験に使われているものだと思う。」高橋の声は少し震えていた。「これが本当なら、かなりの倫理的問題が含まれている。しかも、このデータには村瀬の名前が関連付けられている。」


「つまり、村瀬はこの実験に関わっていた…?」彩が驚きの声を上げた。


「その可能性が高いわね。」奈緒美は冷静に答えた。「でも、それだけじゃない。村瀬はこの実験を止めようとしていたのかもしれない。」


「止めようとしていた…?それで命を落としたってこと?」彩は疑念を深めた。


「かもしれないわ。」奈緒美は深く考え込んだ。「彼が『彼ら』と呼んでいた存在が、実験を続けさせるために村瀬を抹殺したのかもしれない。」


その時、スマートフォンの画面に新たな通知が届いた。高橋からの追加情報だった。「奈緒美、解析を進めていたら、さらに興味深いことが分かった。このデータには、特定の病気に対する治療法を探るための情報も含まれている。」


「治療法…?」奈緒美はその言葉に反応した。「それって一体どういうこと?」


「まだ詳細は分からないけど、このデータが使われていた目的は、人類の遺伝子操作だけじゃないかもしれない。もしかすると、何か特定の病気に対する治療法を研究していた可能性もある。」


「村瀬がその研究に関わっていたとして、その治療法がどんなものだったのか…」彩が思わず呟いた。


「それが真実なら、このデータには膨大な価値がある。」奈緒美は確信を持って言った。「でも、同時にそれが彼の死を招いた理由でもあるかもしれない。」


「奈緒美、もう一つ気になることがある。」高橋が話を続けた。「このデータの中に、いくつかのメッセージが含まれているんだけど、それが暗号化されていて、今のところ解読できないんだ。」


「暗号化されたメッセージ?」奈緒美は眉をひそめた。「それが何か重要なことを示しているかもしれないわね。」


「その通り。でも、解読には時間がかかりそうだ。」高橋は慎重に言葉を選んだ。「引き続き解読を試みるけど、他にも何か手がかりが必要かもしれない。」


「私たちも何か手がかりを探すわ。」奈緒美は決意を固めた。「このデータが全ての鍵を握っているのなら、村瀬の死の真相を解き明かすために、どんな手段でも取るしかない。」


「分かった。」高橋は短く答えた。「僕も全力を尽くす。何か進展があればすぐに連絡するよ。」


通信を終えた奈緒美は、彩に目を向けた。「この遺伝子データ、そして暗号化されたメッセージ…全てが繋がった時、村瀬の死の真相が明らかになるはずよ。」


「でも、これが本当に何を意味しているのか、まだ分からない。」彩は少し不安げに言った。


「それを明らかにするのが私たちの使命。」奈緒美は強い意志を込めて答えた。「私たちは絶対にこの事件を解決するわ。村瀬が守ろうとしたもの、その真実を掴むために。」


二人はその場で休息を取りつつも、次の行動に備えて計画を練っていた。村瀬が命を賭けて隠そうとした真実に近づくために、彼女たちはさらに深い闇の中へと足を踏み入れる決意を固めた。

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