第38話 新たな異常

村瀬正弘の自宅に設けられたNDSラボの臨時調査室で、奈緒美たちは新たな手がかりに迫っていた。しかし、その矢先に発見された「新たな異常」が、彼らを再び現場へと駆り立てることになる。次々と現れる謎が絡み合い、事件の全貌がますます見えなくなっていく。


奈緒美、彩、そして高橋剛は、村瀬正弘の遺体が安置されている遺体保管室に戻ってきた。そこには既に中谷彩が待っており、彼女の表情にはいつになく緊張感が漂っていた。


「彩、何が見つかったの?」奈緒美が緊張を隠し切れないまま問いかける。


「ちょっと信じられないことが起きてるんだけど…」彩は深刻な面持ちで答えた。「村瀬の遺体に、さらに新たな痕跡が見つかったの。特に注目すべきは、体内にあった異常な物質が再び活性化していること。」


「活性化?」高橋が疑問を口にする。


「そう。まるで何かの反応が遺体に起こっているみたいなの。」彩はモニターに映し出された遺体のスキャン画像を指差しながら説明を続けた。「特に心臓付近の組織が変化してる。これは死後硬直が進んだ後にあり得ないことなんだけど…」


「まさか、外部から何かが加わった?」奈緒美が警戒心を抱く。


「その可能性もある。もしくは、彼が生前に摂取していた物質が遺体になっても反応を続けているのかもしれない。でも、これが何なのか、まだ分からない。」彩はさらにモニターを操作しながら、データを解析していく。「今のところ分かるのは、体内にある物質が特殊な化学反応を引き起こしているということだけ。」


「これが、彼が『彼ら』と呼んでいた存在に関係しているのか?」奈緒美は再び手がかりを探るために考えを巡らせた。「もしそうなら、この物質が事件の鍵を握っているのかもしれないわ。」


「まさか…彼らが何かの実験をしていたとか?」高橋が思いついたように言った。


「それも考えられる。」奈緒美は思案深く答えた。「だけど、このままでは証拠が不十分すぎる。もっと多くの情報が必要だわ。」


その時、神谷悠が部屋に入ってきた。「奈緒美、村瀬が生前に頻繁に出入りしていた施設が分かった。彼が死の直前に行った場所も含まれている。そこを調査すれば、さらに詳しい情報が手に入るかもしれない。」


「施設?」奈緒美が興味を示す。


「はい。村瀬が密かに資金を提供していた研究施設があるんです。そこでは、何らかの研究が行われていたようですが、詳細は未だに不明です。」神谷は村瀬の動向を追跡して得られた情報を示した。「この施設が今回の事件と密接に関わっている可能性が高い。」


「なるほど。」奈緒美は神谷の言葉に真剣な表情を見せた。「その施設に行って、何が行われていたのかを調べる必要があるわね。村瀬が関与していた『研究』が、事件のカギを握っているかもしれない。」


「でも、その施設はかなり厳重な警備が敷かれているみたい。」神谷は警戒心を抱く。「簡単に入れる場所じゃないかもしれない。」


「それでも行くしかない。」奈緒美は決然とした口調で言った。「村瀬が命を懸けてまで守ろうとしたものが何なのか、確かめるためには、危険を冒してでも真実を追わなければならない。」


彩もまた、決意を新たにしたように頷いた。「分かった。私も一緒に行く。あの物質の正体を突き止めるために、現地での調査が必要だと思う。」


「じゃあ、私たちで準備を整えましょう。」奈緒美は即座に指示を出し、メンバーたちを動かした。「高橋、君は引き続きここでデータの解析を続けて。私たちが現場から戻るまでに、可能な限りの情報を集めておいて。」


「了解です。」高橋はすぐに作業に取り掛かった。


その後、奈緒美と彩は、現地調査のために必要な装備を整え、施設へと向かう準備を進めた。神谷が用意した施設の情報は限られていたが、それでも彼らは迷うことなく行動を開始した。


「奈緒美、どうしても気になるんだけど…」彩が不安げに口を開いた。「もし、これがただの研究じゃなくて、もっと悪質な何かだったら?」


「その可能性はある。」奈緒美は慎重に答えた。「でも、それを確かめるために私たちはここにいるの。真実を突き止めるためなら、どんな危険にも立ち向かう覚悟があるわ。」


「分かった。」彩は力強く頷き、彼女の決意を支持した。


施設に到着した奈緒美たちは、その厳重な警備に直面することになる。入口には、複数のセキュリティシステムが設置されており、一筋縄ではいかないことを示唆していた。しかし、奈緒美は冷静に状況を見極め、最善の策を練って行動に移す。


「何としても、この施設に入って真実を掴む。」奈緒美は心の中で自らを奮い立たせながら、施設の入り口へと歩を進めた。彼女たちが直面する困難は未知数であり、そして、その先に待ち受けるものはまだ見えない。

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