第31話 犯人の狙いと予期せぬ真実

夜が明け、薄明かりが倉庫の古びた窓から差し込む頃、警察とNDSラボのチームは、犯人の手がかりを追って忙しなく動いていた。倉庫全体が捜索され、古びた機材や書類、そして新たな証拠が次々と発見されていく中、奈緒美は一枚の古い新聞記事に目を留めた。


「これ…」奈緒美は呟きながら、その記事を慎重に拾い上げた。記事には、数年前に起きた化学工場での事故が大きく取り上げられていた。それは、かつてこの倉庫と密接に関わっていた工場での出来事であり、記事の中には死亡者や負傷者のリストも掲載されていた。


「この工場事故が…事件の引き金だったのかもしれない。」奈緒美は思わず声を漏らした。


「何を見つけたんだ?」刈谷が奈緒美に歩み寄り、記事を一緒に見た。


「この事故の記事です。数年前に化学工場で爆発事故があったらしい。」奈緒美は冷静に説明した。「その時に亡くなった人々の中に、犯人の家族がいたのかもしれません。」


「復讐か…」刈谷は考え込むように言った。「だが、それだけでは説明がつかない。彼がこんなにも計画的に動き、警察を欺き続けているのは、ただの復讐以上の何かがあるはずだ。」


「ええ、何かもっと深い動機があるに違いありません。」奈緒美は頷き、さらに記事を読み進めた。「この記事によれば、事故の原因は工場の管理ミスだとされています。しかし、それを裏付ける証拠は何も見つかっていないと書かれています。」


「つまり、工場側が何かを隠している可能性があるということか。」刈谷は険しい表情で言った。「もし犯人がそれを知っているとすれば、彼は真実を暴露しようとしているのかもしれない。」


その時、毛利が倉庫の奥から慌ただしく駆け寄ってきた。「刈谷さん、奈緒美さん、大変です。新たな手がかりが見つかりました。」


毛利は二人をある部屋へと導いた。そこは、これまでの捜索でも見落とされていた場所であり、ほとんど使われていなかったような物置のような部屋だった。部屋の中央には、大きな金庫が置かれており、その扉はわずかに開いていた。


「中を確認したところ、複数の書類が残されていました。」毛利は金庫の中から取り出した書類を手渡した。「これは、あの化学工場の内部文書のようです。事故に関する詳細な記録が含まれています。」


奈緒美はすぐにその書類を確認し、目を見開いた。「この文書には、工場の管理ミスだけでなく、意図的な不正が記録されています。これが犯人の動機を示す証拠かもしれません。」


「意図的な不正…」刈谷はその言葉に反応し、書類に目を通した。「もしこれが公になれば、工場の責任者たちは大きな問題に直面することになる。犯人はこれを使って、彼らに復讐しようとしているのか。」


「ただ、それだけではないようです。」奈緒美はさらに書類をめくりながら言った。「この書類には、犯人が今も狙っている可能性のある人物のリストが含まれています。彼はまだ復讐を続けようとしているのかもしれません。」


「次のターゲットが誰なのかを特定しなければならない。」刈谷は緊張した表情で言った。「これ以上、犠牲者を出すわけにはいかない。」


その時、奈緒美の携帯電話が鳴り響いた。画面には、NDSラボの河合からの連絡が表示されていた。奈緒美はすぐに電話を取り、状況を確認した。


「河合さん、どうしました?」奈緒美は焦るように問いかけた。


「奈緒美さん、こちらでも新たな情報が入りました。」河合の声には緊張感があった。「犯人が使っていた暗号をさらに解析した結果、彼の次のターゲットが特定できました。ターゲットは…」


その瞬間、倉庫内の静けさが一瞬にして破られた。奈緒美は刈谷と目を合わせ、言葉を失った。犯人の次の狙いが特定されたという情報は、彼らにとって驚愕の事実だった。


「すぐにその場所へ向かいます。」奈緒美は電話を切り、刈谷に向き直った。「犯人の次のターゲットが特定されました。私たちが急がなければ、また犠牲者が出るかもしれません。」


「急ごう。」刈谷は即座に指示を出し、チーム全員に緊急対応を命じた。「この状況を打破するためには、全力で動かなければならない。」


奈緒美、刈谷、毛利は急いで倉庫を後にし、次のターゲットがいる場所へと向かっていった。彼らの心には、犯人を止めるという強い決意が宿っていた。これ以上の犠牲者を出さないために、彼らは全てを賭けてこの戦いに挑むことを決意していた。

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