第29話 内部告発者の対決と新たな犠牲者
警察署内は静まり返っていたが、その静けさの裏には張り詰めた緊張感が漂っていた。内部告発者の正体が徐々に明らかになりつつあり、刈谷と毛利はその動きを監視し続けていた。署内のカメラ映像が何度も再生され、捜査の一環としての全ての行動が確認されている。
刈谷はモニターを見つめながら、次の一手を考えていた。監視対象の捜査員が署内を出た後、どこに向かうのかを追跡しなければならなかった。彼は毛利に目をやり、準備が整ったかを確認した。
「毛利、準備はいいか?」刈谷は低い声で問いかけた。
毛利は即座に頷き、通信機器を調整しながら答えた。「はい、すでに追跡チームが待機しています。彼が署外に出た瞬間に追跡を開始します。」
刈谷は再びモニターに目を戻し、内部告発者がどこに向かうのかを見極めようとした。彼の心には、不安と決意が混在していた。もし、この追跡で犯人との接触が確認できれば、捜査は大きく進展するだろう。しかし、失敗すれば犯人はさらに深く潜伏し、次の犠牲者が出る危険性が高まる。
「彼が動いた!」毛利が突然叫んだ。モニターに映し出された捜査員が署内を出て、外の通りへと姿を消していく。
「追跡を開始しろ。」刈谷は冷静に指示を出した。「絶対に見失うな。彼がどこで、誰と会うのかを確認するんだ。」
追跡チームが捜査員の後を追い、彼の行動を細かく監視していく。捜査員は人目を避けるように細い路地を進み、やがて暗がりの中に姿を消した。刈谷と毛利は、モニター越しにその様子を見守りながら、緊張感を高めていった。
「彼が止まった…」毛利が報告した。「誰かと会っているようです。」
「誰だ?」刈谷が焦るように問いかけた。
「見えません。もう少し近づきます。」毛利は緊張の色を浮かべながら答えた。「しかし、何かを渡しているようです。恐らく、情報か金銭か…」
その瞬間、モニターが一瞬途切れた。刈谷は眉をひそめ、何が起こったのかを考えた。何かが異常だ。彼らが気づかぬうちに、捜査員が気づかれた可能性があった。
「毛利、すぐに連絡を入れろ。追跡チームを引き上げさせるんだ。」刈谷は冷静に指示を出したが、その内心では焦りが募っていた。
しかし、毛利が通信を試みたその時、追跡チームからの応答がなかった。全てが途切れた。刈谷は即座に状況を察し、何かが大きく狂っていることを理解した。
「彼らがやられた…」刈谷は静かに言った。「内部告発者は、我々の動きを読んでいた。彼はすでに犯人と通じている。私たちが思っていたよりも深く入り込んでいる。」
毛利は無言で頷き、次の指示を待った。彼らの計画は失敗に終わったが、ここで諦めるわけにはいかない。犯人はまだ動いているのだ。
「奈緒美に連絡を入れる。」刈谷は決意を込めて言った。「この状況を伝えて、彼女たちが進めている捜査と合わせて次の手を考えるんだ。」
その頃、奈緒美はラボで紙切れの解読を続けていたが、何かが引っかかっていた。メモに書かれた文字の並びに、規則性があることに気づいたのだ。それは、単なるメッセージではなく、暗号のように見えた。
「これは…」奈緒美は紙を見つめながら、徐々にその意味を解き明かし始めた。「犯人は意図的に、我々を挑発している。」
その時、刈谷からの連絡が入った。奈緒美は即座に電話に出て、彼からの報告を聞いた。
「内部告発者が我々の動きを知っていた。それが原因で追跡は失敗した。今、状況は極めて危険な状態だ。」刈谷の声には焦りが滲んでいた。
「わかりました。」奈緒美は冷静に答えた。「しかし、こちらも手がかりを掴みました。このメモは暗号のようなものです。犯人が次に動く場所やターゲットを示唆している可能性があります。」
「暗号?」刈谷は考え込むように言った。「それを解読できれば、次の犯行を防ぐことができるかもしれない。だが、時間がない。犯人がいつ次の手を打つかはわからない。」
「急いで解読を進めます。」奈緒美は決意を固めた。「この暗号が解ければ、犯人の動きを予測できるかもしれません。」
電話を切った奈緒美は、すぐに暗号の解読に集中した。彼女の脳内で、次々と文字のパターンが組み替えられ、犯人が隠したメッセージが少しずつ浮かび上がってきた。しかし、その解読は容易ではなかった。犯人の狡猾さが、このメッセージにも反映されているように感じられた。
ラボ内には静かな緊張感が漂っていた。奈緒美はその中で、最後の一つのピースを探し求めていた。犯人が次に動く前に、全てを明らかにしなければならない。
その瞬間、奈緒美の目に一つの答えが浮かび上がった。「ここだ…犯人が次に狙う場所がわかった!」
彼女は即座に刈谷に連絡を入れ、犯人の次なる動きを予測した場所を伝えた。彼らは再び動き出し、犯人を追い詰めるための新たな戦いが始まった。
夜が更けていく中で、警察とNDSラボは次なる一手を打つために準備を整えていった。犯人との直接対決の瞬間が近づいていた。
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