第27話 内部告発者と警察内部の葛藤

夜が深まり、警察署内の雰囲気は緊張に包まれていた。刈谷は自分のデスクに座り、手元の資料を見つめていたが、何かが頭の中で引っかかっていた。これまでの事件と今回の連続殺人事件を繋げる糸口を探し続けていたが、どうしても一つのピースが欠けているように感じていた。


「刈谷さん、ちょっといいですか?」毛利が静かに声をかけた。彼は何かを決心したような表情で、刈谷のデスクに近づいてきた。


「何だ、毛利。」刈谷は視線を上げ、彼の表情の変化に気づいた。「何かあったのか?」


「実は…」毛利は一瞬躊躇したが、続けた。「警察内部に、この事件に関与しているかもしれない人物がいるという情報を掴みました。」


その言葉を聞いた瞬間、刈谷は思わず眉をひそめた。「どういうことだ?内部に犯人の協力者がいるというのか?」


「正確にはまだわかりません。」毛利は慎重に言葉を選んだ。「しかし、情報提供者によれば、何者かが我々の捜査情報を外部に漏らしている可能性があります。」


刈谷はしばらく無言で考え込んだ。もしそれが本当ならば、捜査の進展が遅れている原因が説明できる。犯人が常に一歩先を行っているように見える理由も。それに、内部告発者がいることで、捜査がさらに混乱する可能性もある。


「情報提供者は信頼できる人物か?」刈谷は冷静に尋ねた。


「信頼できるかどうかは、まだ判断しかねます。」毛利は正直に答えた。「しかし、これまでの捜査の進行状況を考えると、無視することはできないと思います。」


刈谷は再び考え込み、次の一手を考えた。警察内部に不信感が広がれば、捜査がさらに難航する可能性がある。しかし、この情報を無視するわけにはいかない。慎重に進める必要があった。


「わかった、毛利。」刈谷は決意を固めたように言った。「内部で信頼できる少数の人間だけにこの情報を伝え、捜査を進めよう。外部に漏れないように、そして内部の誰が協力者なのかを見極める必要がある。」


毛利は頷き、「了解しました。信頼できるチームで調査を進めます。」と答えた。


その時、奈緒美が署内に入ってきた。彼女は刈谷と毛利の緊迫した表情を見て、すぐに何かがあったことを察した。「何か問題が発生しましたか?」


刈谷はすぐに奈緒美に状況を説明した。内部告発者の存在が疑われること、そしてその可能性が捜査に与える影響について。奈緒美もまた、その話を聞きながら、犯人が警察内部に手を伸ばしている可能性に不安を感じた。


「もし犯人が内部に協力者を持っているならば、私たちの捜査は完全に見透かされているかもしれません。」奈緒美は静かに言った。「犯人が何を狙っているのか、これまで以上に慎重に分析する必要があります。」


「その通りだ。」刈谷は深く頷いた。「私たちは内部の調査と同時に、外部からの圧力にも対処しなければならない。だが、まずは確実な証拠を掴むことが最優先だ。」


「情報を遮断する方法を考える必要があります。」奈緒美は提案した。「犯人がどのように情報を入手しているのかを特定し、そのルートを断ち切ることが重要です。」


「いい提案だ、奈緒美。」刈谷は感謝の意を込めて答えた。「情報漏洩のルートを特定し、それを断ち切る。そうすれば、犯人の動きを封じることができるかもしれない。」


その場で、三人は今後の対応策を練り上げた。内部告発者を特定するための調査を進めつつ、犯人の動きを封じるための新たな作戦が立てられた。彼らは全ての情報を厳重に管理し、外部に漏れないようにすることで、捜査の主導権を取り戻そうと決意した。


夜が更けていく中、警察署内の緊張感は一層高まっていった。奈緒美たちは、次なる一手を慎重に進めるために、全ての手がかりを徹底的に分析し始めた。内部に潜む裏切り者を見極めるために、彼らの戦いは新たな段階に入ろうとしていた。

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