第15話 増加する謎

前田奈緒美が「Project Mortem」に関する懸念を提起した数日後、NDSラボ内の雰囲気はさらに重苦しくなっていた。佐藤の突然の死から立ち直る暇もなく、ラボの研究者たちは新たな不安に直面することになる。


ある朝、奈緒美がラボに到着すると、廊下の奥から緊迫した声が聞こえてきた。彼女はその方向へ急いだ。現場にはすでに数人の研究者たちが集まっており、その中央には倒れた人物がいた。顔色を失い、動かなくなったその人物は、プロジェクトの主要メンバーの一人である篠崎亮だった。


「また…?」奈緒美の胸に冷たい何かが走った。彼女はすぐに篠崎に駆け寄り、脈を確認したが、すでに彼は呼吸も心拍も止まっていた。


「すぐに医療チームを呼んで!」奈緒美は振り返り、近くにいた同僚に指示を出したが、その声には無意識のうちに焦りが混じっていた。


篠崎は、佐藤と同じプロジェクトに深く関わっていた人物だ。彼の突然の死も、またしても不可解なものであった。周囲の研究者たちは動揺し、ざわめき始める。「何かがおかしい…」奈緒美は心の中で呟き、今回の出来事が単なる偶然ではないことを強く感じていた。


篠崎の遺体はすぐに奈緒美の指示で隔離され、解剖が行われることになった。彼女は、佐藤の死と同様に篠崎の体を徹底的に調べ始めた。再び、外傷もなく、内部器官にも明らかな異常は見当たらない。だが、彼女はすでに一つの仮説を持っていた。


奈緒美は再び血液サンプルを採取し、分析を行った。そして、期待通り、篠崎の血液中にも前回と同じ化学物質が検出された。それは、「Project Mortem」に使用される技術が原因である可能性をさらに強めた。


「また同じ物質…これが意味するものは…」奈緒美は分析結果を見つめ、考え込んだ。彼女は、この物質がプロジェクトの副産物として生じているものであり、それが人間の体に致命的な影響を与えているのではないかと疑い始めた。


彼女はすぐにこの事実を森田や榊原に報告することにした。事態は急速に深刻さを増していた。奈緒美はラボのリーダーである榊原に直接会い、篠崎の死が佐藤の死と同様に「Project Mortem」と関連している可能性を伝えた。


「このままプロジェクトを続行するのは非常に危険です。二度も同じ結果が出ています。何かが大きく間違っている…」奈緒美の声には、抑えきれない不安がにじみ出ていた。


榊原は奈緒美の報告を黙って聞いていたが、彼の表情には深い苦悩が浮かんでいた。「奈緒美さん、あなたの言う通り、プロジェクトには何らかの問題があるかもしれません。しかし、これが本当に『Project Mortem』によるものだとしたら、私たちが対処しなければならないのは、もっと根本的な問題です。」


「そうです。これ以上の犠牲を出すわけにはいきません。」奈緒美は強く頷いた。「ただし、これが事実なら、プロジェクトを停止するだけで済む問題ではないかもしれません。私たちは、この物質がどのようにして発生しているのか、そしてそれが人体にどのように影響を与えるのかを解明する必要があります。」


「時間がありません。次に何が起こるか分からない。」榊原は険しい顔つきで続けた。「すぐに対策を講じましょう。森田には私から話をします。」


奈緒美は榊原の言葉に一抹の安心を覚えたが、心の奥底ではまだ不安が消えなかった。これが本当に「Project Mortem」の問題ならば、今後さらに重大な事態が起こる可能性が高い。彼女はその恐れを胸に抱きながら、次なる調査の準備に取り掛かった。


奈緒美が研究室を後にする時、彼女は再び冷たい風を感じた。それはまるで、これから訪れるさらなる困難を予感させるかのようだった。彼女は立ち止まり、空を見上げた。その先に待つのは、奈緒美がまだ想像もしていない事実かもしれない。しかし、彼女は決意を新たにし、前に進むことを心に誓った。

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