第14話 森田との対立

前田奈緒美は、佐藤の解剖と検査結果から得た情報をまとめ、NDSラボの会議室へと足を運んだ。会議室には、すでにラボのリーダーである榊原明、法務アドバイザーの神谷悠、そして「Project Mortem」を指揮する森田正隆が集まっていた。奈緒美が部屋に入ると、一瞬、緊張した空気が場を包み込んだ。


「奈緒美さん、どんな結果が出ましたか?」榊原が促すように声をかけた。彼の表情には、事態の深刻さを理解していることが窺えた。


奈緒美はゆっくりと呼吸を整え、落ち着いた声で報告を始めた。「佐藤さんの死因ですが、通常の解剖では特定できませんでした。しかし、血液サンプルの検査から、微量の特殊な化学物質が検出されました。それが直接の原因である可能性が高いです。」


その言葉に、森田の顔色が変わった。「特殊な化学物質? それが一体何なのか、詳しく調べたのか?」


「現在、さらに詳細な分析を進めていますが、その化学物質が『Project Mortem』に関連している可能性があります。このプロジェクトの安全性について、再度確認する必要があると考えています。」奈緒美は冷静に答えたが、その言葉には強い警告が含まれていた。


森田は眉をひそめ、不機嫌そうに椅子に寄りかかった。「奈緒美さん、プロジェクトに疑念を抱くのは勝手ですが、私たちはこれまで何度もシステムの安全性を確認してきた。それに、今さらプロジェクトを停止するなんてあり得ません。これはNDSラボの未来を左右するプロジェクトなんです。」


「ですが、佐藤さんの死因がこのプロジェクトに関連しているとしたら、それは見過ごすことができない問題です。」奈緒美は一歩も引かず、森田の視線を真っ直ぐに受け止めた。「科学的に証明された事実を無視することはできません。このプロジェクトに何らかの危険が潜んでいるとしたら、それを見過ごすわけにはいかないのです。」


「私たちは安全性を最優先にしてきた。もし何か問題があるなら、それを修正すればいい。だが、プロジェクトそのものを疑うなんて…それは過剰反応だ。」森田は苛立ちを隠そうとせず、強い口調で反論した。


「過剰反応かどうかを判断するのは、事実が揃ってからです。」奈緒美は毅然とした態度で続けた。「プロジェクトの一時的な停止を提案します。さらに徹底的な検証が必要です。私たちが何も行動を起こさなければ、同じような事態が再び起こる可能性があります。」


その言葉に、会議室の空気がさらに重くなった。榊原は両者の意見を聞きながら、慎重に言葉を選んで口を開いた。「森田さん、奈緒美さんの言うことにも一理あります。確かに、プロジェクトがラボにとって重要なのは理解していますが、安全性が最優先されるべきです。もう少し時間をかけて、詳細な調査を行うことを考えましょう。」


森田は不満げな表情を浮かべたが、榊原の言葉を無視するわけにはいかなかった。「分かりました、再度検証を行います。しかし、その間にプロジェクトの進行が遅れることは、ラボ全体にとっても大きな損失です。それを理解してもらいたい。」


「もちろんです。」奈緒美は静かに頷いた。「私たちは科学者として、真実を追求するためにここにいます。結果がどうであれ、それが我々の使命です。」


会議は一旦打ち切られ、奈緒美は深い息をついた。彼女は自分が正しいと信じていたが、プロジェクトを推進する側との対立が今後さらに激化することを予感していた。彼女の心には、科学の力でこの状況を打開しなければならないという強い決意が刻まれていた。


外に出ると、冷たい風が頬に当たった。奈緒美はそれを一つの合図と捉え、これから訪れるであろう困難に立ち向かう覚悟を新たにするのだった。

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