第9話 暴かれる陰謀

翌朝、NDSラボは再び緊張感に包まれていた。奈緒美たちが廃工場で手に入れた証拠は、企業の隠蔽工作を暴くための重要なピースとなりつつあったが、全ての真相が明らかになるまでは、まだ道のりが遠い。


奈緒美は、前夜に手に入れた資料を再度確認していた。そこには、企業が過去に行っていた「特殊プロジェクト」に関する詳細な記録が記されていた。だが、その内容は不明瞭な部分が多く、意図的に隠された情報があることが伺えた。


「これだけでは全ての真相に辿り着けない……」奈緒美は焦りを感じながらも、冷静さを保とうとしていた。


その時、神谷悠がオフィスに入ってきた。彼の表情は険しく、何か重要な情報を掴んだ様子だった。


「前田、急いでくれ。企業側から新たな動きがあった。」神谷は静かな声で奈緒美に告げた。


「どういうことですか?」奈緒美はすぐに立ち上がり、神谷の後を追った。


神谷はオフィスのモニターを操作し、企業側から送られてきた新しい報告書を表示した。そこには、昨夜の会合後に企業が発表した「調査結果」に関する記載があった。


「彼らは、一連の誤作動が『外部からの不正アクセスによるものである可能性』を示唆している。しかし、これが意図的に行われたものであるとは認めていない。」神谷の声には苛立ちが混じっていた。


「つまり、彼らは責任を認めず、全てを外部の『不正アクセス』のせいにしようとしているんですね。」奈緒美はその報告書を睨みつけた。「彼らが真実を隠そうとしていることは明らかです。」


「そうだ。そして、その背後にはまだ何かが隠されている。」神谷は続けた。「我々が持っている証拠を基に、さらに企業の内部に迫る必要がある。彼らが本当に隠していることを突き止めるためには、決定的な証拠が必要だ。」


「でも、どうやって……?」奈緒美は戸惑いを隠せなかった。「私たちが持っている証拠だけでは、彼らの隠蔽工作を完全に暴くには足りないかもしれません。」


「そこで、この人物に話を聞くことにした。」神谷はモニターに別の情報を映し出した。そこには、企業の元エンジニアである**佐伯啓二**という名前が表示されていた。


「佐伯啓二……彼は、企業の『特殊プロジェクト』に関わっていた人物ですか?」奈緒美はその名前に目を留めた。


「そうだ。彼は数年前に企業を退職しているが、内部の情報に詳しい人物だ。彼が何かを知っている可能性が高い。」神谷は冷静に答えた。


「彼に直接話を聞きに行くんですね?」奈緒美はすぐにその意図を理解した。


「その通りだ。彼が持っている情報が、我々の手にした証拠を補完し、真相を暴く鍵になるかもしれない。」神谷は決意を込めて言った。


「分かりました。すぐに彼に会いに行きましょう。」奈緒美は神谷と共に、佐伯啓二に会いに行く準備を始めた。


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佐伯啓二が住むアパートは、郊外の静かな住宅街にあった。奈緒美と神谷は、その一角に佇む古びた建物の前で足を止めた。


「ここが彼の住んでいる場所か……」奈緒美は周囲を見渡しながら、かすかな不安を感じていた。もし彼が何かを知っているのなら、それを打ち明けることに躊躇するかもしれないと考えたからだ。


神谷はその不安を感じ取ったようで、奈緒美に向けて小さく頷いた。「冷静に話を聞くんだ。我々が知りたいのは、真実だけだ。」


奈緒美はその言葉に励まされ、佐伯の部屋のドアをノックした。しばらくして、ドアがゆっくりと開き、佐伯啓二が現れた。彼はやややつれた様子だったが、その目には鋭い光が宿っていた。


「あなた方が、NDSラボの……」佐伯は奈緒美たちの名刺を受け取り、確認した。


「はい、前田奈緒美と申します。そしてこちらは神谷悠です。お時間をいただきありがとうございます。」奈緒美は丁寧に挨拶をした。


「話は伺っています。どうぞお入りください。」佐伯は静かに言って、二人を部屋に招き入れた。


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部屋の中は簡素で、家具も最小限しか置かれていなかった。佐伯は椅子に座り、奈緒美と神谷を正面に迎えた。


「それで、私に何をお聞きになりたいのでしょうか?」佐伯は静かな口調で尋ねた。


「実は、企業が過去に行っていた『特殊プロジェクト』について、詳細をお伺いしたいのです。」神谷がまず切り出した。「そのプロジェクトが、今回の事件に深く関わっている可能性が高いと考えています。」


佐伯はしばらく黙り込んだ。彼の目は、どこか遠くを見つめているようだったが、やがて重い口を開いた。「……あのプロジェクトが、こんな形で表に出るとは思ってもいませんでした。」


「やはり、何か重要な事実が隠されていたのですね?」奈緒美は佐伯の反応を見逃さずに尋ねた。


「そうです。」佐伯は深い溜息をついた。「私が関わっていたのは、医療デバイスの信号テストに関するプロジェクトでした。当初は、その技術が人々の健康を守るために使われると信じていました。しかし、ある時からその目的が変わり始めたのです。」


「目的が変わった?」神谷が眉をひそめた。


「はい。」佐伯は苦しげに言葉を続けた。「企業は、外部からの信号を利用して、デバイスを遠隔操作する技術を開発し始めました。表向きは、医療の進展を目的とした研究でしたが、実際にはその技術を使って、特定の人物を操るための実験が行われていたのです。」


奈緒美はその言葉に衝撃を受けた。「それが……山田さんのケースに関係しているということですか?」


「おそらく、そうでしょう。」佐伯はうなずいた。「企業は、その技術を悪用して、山田さんのような対象者を遠隔で操作し、デバイスの誤作動を引き起こす実験を行っていたのです。そして、その実験結果を隠すために、彼を……」


「それが原因で、山田さんは命を落とした……」奈緒美はその恐ろしい真実に胸が締め付けられる思いだった。


「私は、その実験の一部を目撃し、真実を知った時に企業を去ることを決意しました。しかし、その後も企業はその技術を開発し続け、今回の事件に至ったのでしょう。」佐伯は自責の念に駆られているようだった。


「この証言が、企業の隠蔽工作を暴く決定的な証拠になります。」神谷は力強く言った。「佐伯さん、我々と共に真実を公にしていただけませんか?」


佐伯はしばらく考え込んだ後、静かに頷いた。「私にできることがあるのなら、協力します。このまま真実が隠されたままでは、これ以上多くの人が犠牲になるかもしれない。」


「ありがとうございます。これで、事件の全貌が明らかになります。」奈緒美はその言葉に感謝を込めて言った。


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NDSラボに戻った奈緒美と神谷は、佐伯から得た証言を基に、企業の隠蔽工作を暴くための準備を進めた。佐伯の証言は、企業が行っていた不正な実験と、山田さんが命を落とすに至った経緯を明らかにするための決定的な証拠となるはずだった。


「これで全てが明らかになる。」奈緒美は自信を持って言った。「企業が隠していた真実を、ついに暴くことができる。」


「だが、まだ油断はできない。」神谷は慎重に続けた。「企業側は我々の動きを察知し、何らかの対策を講じるかもしれない。最後まで気を抜かずに進めよう。」


「はい、分かっています。」奈緒美は強い決意を胸に、次の行動に向けて準備を整えた。


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その夜、奈緒美は再び自宅に戻り、ベッドに横たわった。彼女の心は、ついに真実に辿り着いたことへの安堵感と、これから待ち受ける最後の戦いへの不安が交錯していた。


「山田さん……あなたの無念を晴らすために、私は最後まで戦います。」


奈緒美はそう誓い、静かに目を閉じた。翌日には、企業との最終決戦が待ち受けている。全ての真実が明らかになる日が、ついに訪れようとしていた。

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