第8話 廃工場の真実

深夜、NDSラボのメンバーたちは静かに廃工場の周辺に集まった。工場は長い間放置され、朽ち果てた外観が不気味な影を落としている。奈緒美、榊原、高橋、そして神谷の4人は、暗闇の中で互いに目を合わせ、無言のうちに意思を確認した。


「ここが、例の信号の発信源か……」奈緒美は、工場の入り口に立ち尽くしながら、心の中で緊張を押さえつけた。


「この場所がデバイスの誤作動を引き起こしていたなら、必ず何か手掛かりがあるはずだ。」榊原は冷静にそう言いながら、懐中電灯を手に取った。「手分けして調査しよう。誰かに見つからないように、注意深く行動してくれ。」


「了解です。」奈緒美は頷き、懐中電灯のスイッチを入れて、工場の内部へと足を踏み入れた。


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工場内は埃と廃材にまみれており、古びた機械や作業台が無造作に散乱していた。奈緒美は慎重に歩を進めながら、目に映る全てのものを観察していた。何か異常なもの、違和感のあるものがないか――彼女の心は緊張感で張り詰めていた。


高橋が足元を注意深く見ながら進んでいくと、突然、古びた機械の一つに目が留まった。「これを見てくれ。古い機械のようだが、何かが設置されている。」


奈緒美と神谷が高橋の元に駆け寄ると、彼は機械の背後に取り付けられた小型の装置を指差した。それは、最新の通信機器のように見えた。


「これが信号の発信源か?」奈緒美は眉をひそめながら、その装置を観察した。


「可能性は高い。何者かがこの工場を利用して、外部に向けて信号を発信していたんだろう。」高橋はその装置を慎重に取り外し、検査のために持ち帰る準備を始めた。


「でも、こんな古びた場所で……どうして?」奈緒美は疑問を抱いたまま、周囲を見渡した。廃工場の中には、かつての産業の名残が所々に残っているが、それらは全て時代遅れのものばかりだった。


「ここが目立たない場所だからこそ、使われていたんだろう。」神谷が静かに答えた。「何かを隠すには、最適な場所だったということだ。」


「それにしても……誰がこんなことを?」奈緒美は再び疑念を抱いた。


「企業側の関与が疑われるが、確証はまだない。」榊原は思案顔で言った。「だが、この装置がデバイスの誤作動に関与している可能性は高い。この装置を調べれば、さらに多くの情報が得られるだろう。」


その時、工場の奥からかすかな物音が聞こえてきた。奈緒美は瞬時に身を硬くし、音の方向に視線を向けた。


「今の音、聞こえましたか?」奈緒美は囁くように言った。


「誰かがいる……」神谷は警戒心を高めた。


「二手に分かれて調査しよう。慎重に進んでくれ。」榊原は指示を出し、奈緒美と神谷、高橋が二手に分かれて工場内をさらに調べることにした。


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奈緒美と神谷は、工場の奥深くに続く廊下を進んでいた。廊下の先には、古いオフィスのような部屋がいくつかあり、扉は全て半開きになっていた。


「気をつけて。何があるか分からない。」神谷は奈緒美に注意を促しながら、先頭を歩いた。


奈緒美は懐中電灯を片手に、オフィスの一つに足を踏み入れた。中には古い机や椅子が並んでおり、埃をかぶった書類やファイルが散乱していた。


「ここは……?」奈緒美はその光景を見て、何かが違うと感じた。「この場所だけ、なぜか整理されていない……」


彼女は机の上に散らばった書類を手に取り、ページをめくり始めた。その中には、工場の設計図や古い通信記録が含まれていた。だが、その一つに目を通した瞬間、奈緒美は心臓が一瞬止まりそうになった。


「これ……」


そこには、企業のロゴと共に、「特殊プロジェクト」の記載があった。さらに、記録には「信号テスト」の項目があり、それが今回の事件に関連している可能性を示唆していた。


「やっぱり、企業側が関与していた……」奈緒美はその結論にたどり着き、すぐに神谷に知らせた。「ここに、企業の特殊プロジェクトに関する資料があります。信号テストが行われていた記録も……」


神谷はその資料を手に取り、目を通した。「これは……重要な証拠になる。」


「これで、企業側の関与がほぼ確定ですね。」奈緒美はその事実に怒りを覚えた。「彼らはこの廃工場を使って信号テストを行い、その結果、デバイスの誤作動を引き起こしていた……」


「だが、まだ全てが明らかになったわけではない。」神谷は冷静に続けた。「この証拠を基に、さらに調査を進める必要がある。企業がこのプロジェクトをどのように進めていたのか、そして誰がそれを指揮していたのかを突き止めなければならない。」


「分かりました。この資料を持ち帰り、分析を進めましょう。」奈緒美はその決意を胸に抱き、神谷と共に廃工場を後にした。


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NDSラボに戻ると、チームはすぐに手に入れた資料を解析し始めた。高橋が持ち帰った装置も解析にかけられ、少しずつその全貌が明らかになりつつあった。


「この装置は、企業が開発したものだということが判明しました。」高橋が報告した。「設計図に記載されていた型番と一致します。さらに、この装置は外部からの指令を受けて信号を発信するように設計されている。」


「つまり、誰かがこの装置を遠隔操作していたということですね。」奈緒美はその事実に戦慄を覚えた。


「その通りだ。」榊原は深く頷いた。「この装置が誤作動を引き起こす原因となった可能性が高い。そして、企業側がそれを隠蔽しようとしていたとすれば……」


「これで、山田さんが操られていた理由が見えてきたかもしれません。」奈緒美は静かに言った。「彼はこの装置の存在を知ってしまい、そして、それを止めるためにリセットを試みたのかもしれない。」


「そしてその結果、命を落とすことになった……」神谷が続けた。


「企業側の隠蔽工作を止めるためにも、この証拠を公にする必要があります。」奈緒美は強い決意を込めて言った。


「だが、まだ全てのピースが揃ったわけではない。」榊原は冷静なままだった。「我々が手にした証拠が全て明らかになったとき、真実が完全に浮かび上がるだろう。」


奈緒美はその言葉に頷き、再び手元の資料に目を通した。廃工場で手に入れた証拠が、事件の全貌を明らかにする鍵となることは間違いない。しかし、その背後にある真実はまだ闇の中に隠されている。


「真実を突き止めるまで、諦めない……」奈緒美は自分自身にそう言い聞かせ、次なる行動に向けて準備を進めた。

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