第10話 最後の証言

朝日が昇ると同時に、NDSラボは緊張感に包まれていた。奈緒美たちは、ついに企業の隠蔽工作を暴くための準備を整え、決定的な瞬間を迎えようとしていた。佐伯啓二の証言を基に、企業側が行っていた不正な実験の全貌を明らかにし、すべての真実を公にするための最終手段が取られようとしていた。


「これで、全てが終わる……」奈緒美は心の中でそうつぶやきながら、最後の確認作業を進めていた。


神谷悠は、オフィスに設置された大きなモニターを見つめていた。そこには、佐伯の証言を記録した映像が映し出されている。この映像が、企業の悪行を明るみに出すための決定的な証拠となるのだ。


「これをメディアに公開する準備は整っている。」神谷は冷静な声で報告した。「企業側がこれに対してどう動くかは分からないが、我々はすでに全ての手を打った。」


「ありがとうございます、神谷さん。」奈緒美は感謝の意を込めて神谷を見つめた。「これで、山田さんも浮かばれるでしょう。」


「全ては、真実のためだ。」神谷は頷き、再び画面に目を向けた。「佐伯さんの証言が、すべての鍵を握っている。彼の勇気に応えるためにも、私たちは最後まで諦めずに進まなければならない。」


「そうですね……」奈緒美は自分自身に言い聞かせるように言葉を返した。彼女の中には、これまでの努力が無駄になるわけにはいかないという強い思いがあった。


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その後、奈緒美と神谷は、佐伯啓二をNDSラボに招き入れた。彼の証言を、企業の代表者たちと対峙する場で公開するためだった。


佐伯はやや緊張した様子で、ラボの中に入ってきたが、奈緒美と神谷の姿を見ると少しだけほっとした表情を見せた。「お二人のおかげで、私はようやく真実を語ることができます。」


「佐伯さん、あなたの勇気に感謝します。これで、全ての真実が明らかになります。」奈緒美は穏やかな声で言った。


「これから、企業側の代表者たちと会合を持ちます。あなたの証言が、その場でどれだけの影響を与えるかは、私たち次第です。」神谷はその決意を込めて続けた。


佐伯は静かに頷き、意を決したように席に座った。「準備はできています。全てを話します。」


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数時間後、NDSラボの会議室には企業側の代表者たちが集まっていた。彼らは全員、緊張した面持ちで奈緒美たちを見つめている。中には不安そうな表情を浮かべる者もいたが、その背後にはまだ隠し事があることが感じ取れた。


「本日は、御社が行っていた『特殊プロジェクト』について、重要な証言があるため、この場を設けさせていただきました。」神谷は静かに口を開いた。「まず、こちらをご覧いただきたい。」


神谷がリモコンを操作すると、会議室のモニターに佐伯啓二の証言映像が映し出された。企業側の代表者たちは、その内容に驚きの表情を浮かべたが、すぐに冷静さを取り戻そうとする様子が見て取れた。


「この映像は、御社の元エンジニアである佐伯啓二氏が、実際に行われていた実験の詳細を語ったものです。これにより、御社が行っていた『特殊プロジェクト』が、医療デバイスを利用して特定の人物を遠隔操作し、意図的に誤作動を引き起こす実験を行っていたことが明らかになりました。」神谷は厳しい口調で続けた。


「これが、真実です。」奈緒美が神谷の言葉を引き継いだ。「山田さんをはじめとする犠牲者たちは、この実験の犠牲になったのです。彼らの命が軽視され、企業の利益のために隠蔽されてきたことを、私たちは許すことができません。」


企業側の代表者たちは、明らかに動揺していた。彼らは視線を交わしながら、何とか反論の言葉を探そうとしていたが、神谷と奈緒美の冷静で揺るぎない態度の前に、その意図は見透かされていた。


「我々は、御社に対して全ての情報を開示することを要求します。また、この事実が公にされた場合、どのような責任を取るつもりなのか、明確な回答を求めます。」神谷は冷静に、しかし力強く言い放った。


企業側の代表者の一人が、ようやく口を開いた。「確かに、御社が提示した証拠は重大です。しかし、我々にはまだいくつかの点で調査が必要です。この場で即座に結論を出すことはできません。」


「それは、逃げ口上に過ぎません。」奈緒美が鋭く反論した。「これ以上の遅延は許されません。私たちはすでに十分な時間を与えました。今、この場で真実を認め、対応策を発表することが求められています。」


企業側の代表者たちは再び沈黙し、互いに視線を交わし始めた。その中で、リーダー格の一人が深いため息をつき、重い口を開いた。「……私たちは、この問題を真摯に受け止め、全ての情報を開示する用意があります。そして、必要な対応を直ちに講じることを約束します。」


その言葉を聞いた瞬間、奈緒美は心の中で安堵の息をついた。ついに、真実が明るみに出る時が来たのだ。


「私たちは、この問題を引き続き監視し、御社の対応を注視します。」神谷は厳しい目で言った。「今後の対応が適切でない場合、我々はさらなる行動を取ることを躊躇しません。」


「その通りです。」奈緒美も力強く付け加えた。「これ以上、犠牲者を出さないためにも、全ての真実を明らかにし、二度と同じ過ちが繰り返されないようにすることが、私たちの使命です。」


企業側は深く頭を下げ、全てを受け入れる姿勢を示した。そして、奈緒美たちがこの場に持ち込んだ証拠が、ついに企業の隠蔽工作を打ち砕くこととなった。


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その日の夜、奈緒美はラボを後にし、自宅に帰ってきた。彼女の心はようやく落ち着きを取り戻し、これまでの苦労が報われたことに安堵していた。


「山田さん……これで、あなたの無念は晴らされました。」


奈緒美は、静かな夜の闇の中で、心の中でそうつぶやいた。そして、彼女はベッドに横たわり、静かに目を閉じた。明日からは新しい一日が始まる。全ての真実が明らかになった今、彼女は新たな気持ちで未来に向き合うことができると感じていた。

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