第6話 愛の巣再建計画!?

 いいのか、本当にこんなんでいいのか。


 引っ越し屋さんがきた後も、何度も自問自答する。


 由芽ゆめちゃん親子のお手伝いもあり、荷物の搬入はすぐに終わった。


 じいちゃんの形見ばかりだった部屋は、俺と由芽ゆめちゃんの荷物でかなりごちゃごちゃになってしまった。


 これ連休中に片付け終わるのかなぁ……。


 由芽ゆめちゃんのお母さんは、荷物の搬入が終わると自宅に帰ってしまった。なにやら自宅の家事を全部ほったらかにして今日来てしまったらしい。


 というわけで、いよいよ俺と由芽ゆめちゃんは二人きりになってしまった。


「……」


 お母さんが帰ってから二時間くらい経つが、由芽ゆめちゃんがずっと無言で片づけをしてる。声をかけないと一生働いてそうな勢いだ。


由芽ゆめちゃん、休憩しよう。初日から飛ばし過ぎだよ」

「あっ、じゃあ私、お茶淹れてくる! 台所使ってもいい?」

「良いけどお茶なんてあったかなぁ?」

「こんなこともあろうかと持ってきてます!」

「はい!?」


 由芽ゆめちゃんが自分のキャリーバッグから買い物袋を取り出した。

 その中から、なんとお茶っ葉の袋が出てきた!


「急須は……」

「あっ、多分、食器棚の中にあったと思う。一緒に探すよ」

想太そうたさんは怪我しているから休んでて!」


 由芽ゆめちゃんがまたあくせく働き始めた。

 これでは休憩をしようと言った意味がない。


由芽ゆめちゃん、これから一緒に住むかもなんだからもっとラクにして」

「うっ」


 そもそも、さっきから由芽ゆめちゃんと全然目が合わない。あんなにおしゃべりだった由芽ゆめちゃんが、二人きりになると大人しくなってしまっていた。


由芽ゆめちゃん」

「はい!」

「もしかして緊張してるの?」


 ピタッと由芽ゆめちゃんの動きが止まった。


「ば、バレました……?」

「謎に敬語だし。だから何度も大丈夫かって聞いたのに」

「ち、違うの! これは嫌だからとかじゃなくて……」

「じゃなくて?」

「今、私にとってはこの時間は夢の時間だから――」

「……」

「私、ずっとこうなったらいいなぁって思ってたの。まさに怪我の光明というか……あっ、怪我したのは想太そうたさんだからそんなこと言ったら怒られちゃうかもだけど……」


 由芽ゆめちゃんがやたらいじらしいことを言ってくる。

 俺に対する好意を全く隠そうとしていない。


 嬉しいといえば嬉しいのだが、由芽ゆめちゃんはまだ未成年だ。

 これは最初にしっかり言っておいたほうが良さそうだ。


由芽ゆめちゃん、準備をしながらでいいから話を聞いてもらえる?」

「うん」


 由芽ゆめちゃんがヤカンを見つけて、お湯を沸かす準備をする。

 俺も茶碗の準備くらいはしよう。


「最初に言っておくけど、俺、今は由芽ゆめちゃんの気持ちには答えられないからね」

「な、なんでぇ!?」

由芽ゆめちゃんがまだ未成年だから」

「うぅうううう」

「……それに俺、借金があるから」

「……」


 そう、俺はこれから隣にあるアパートの再建をしなければならないのだ。

 借金返済のために、六部屋中残り五部屋をなんとかして埋めなければならない。


「だから由芽ゆめちゃん、これだけは覚えといて」

「う、うん」

「俺のことが嫌いなったらいつでも言って。この生活は由芽ゆめちゃんが俺を試す期間でもあるのだから」


 由芽ゆめちゃんは、俺のことを白馬の王子様かなにかと勘違いしているのかもしれない。ただ昔の記憶が美化されているだけかもしれない。


 ……鈴木すずき想太そうたはただの大学三年生。


 これに気がついてしまったら、汐見しおみ由芽ゆめさんは俺に失望するかもしれない。


 もしかしたら、この生活は昔と今のギャップを埋めるための時間なのかもしれないなぁ……。


「そもそも、なんでそんなに俺のことを思ってくれてるんだか」

「初恋だからじゃダメ?」


 由芽ゆめちゃんが真っすぐ俺を見据えてそう答える。


「分かった。私が大人になるまでに、想太そうたさんに好きになってもらえるように頑張る」

「そういうことじゃない! それに俺、由芽ゆめちゃんに色々してもらってもそれを返せてあげられるか自信ないよ!」

「私がしたいって言っているから良いの! 想太そうたさんは真面目すぎ!」

「ゆ、由芽ゆめちゃんは頑固だなぁ。昔からそんなんだっけ?」


 思わず笑ってしまった。

 可愛い顔して、強引、強情、意地っ張り。

 俺は由芽ゆめちゃんの未来を心配しているのに、本人は全然そんなこと気にしていない。


「私、一つ言っておくからね!」

「うん」

「私、その想太そうたさんのその笑った顔が大好き!」

「ありがと」

「な、流された!?」

「だって微妙に嘘くさいし」

「だから、私、想太そうたさんには嘘つかないからっ!」


 えっへんと由芽ゆめちゃんが胸を張る。

 ガスコンロの上にあるヤカンがぴゅーと鳴り始めた。


「ところで、なんでいきなり俺のこと名前で呼ぶようになったの?」

「お兄ちゃんだとおかしいかなって思って」

「そう?」

「だって“お兄ちゃん“って絶対に恋愛対象として見てもらえない呼び方じゃん」

「すっげーぐいぐい来る」

「だから想太そうたさんは、私のことは“由芽ゆめ”って呼び捨てでいいからね!」

「分かったよ由芽ゆめちゃん」

「全然、話聞いてない!」


 本当に面白い子だなぁ。


 ……正直、東京に帰っている間は気持ちが参っていた。

 この家に来たときも、死んだじいちゃんの面影を見て落ち込みそうになっていた。

 でも、この子のおかげで大分気持ちが明るくなったよ。


想太そうたさん、和室に戻ろ」

「そうだね」


 俺は茶碗を、由芽ゆめちゃんを急須とヤカンを持って、和室に戻る。

 由芽ゆめちゃんが、手際よく急須にお茶っ葉を入れていく。


(へぇ~……)


 ちょっとびっくり。


 普段の振る舞いや話し方を見ているとまだまだ子供だなぁと思ってしまうが、お茶淹れている様子は全然違う。


 一つ一つの所作がとても丁寧で品がある。


 ここだけを切り取ると、とてもじゃないが十五歳に見えない風格がある。

 多分、いっぱい練習してくれたのだろう。

 

「ところで想太そうたさん、借金返済のアテはあるの?」


 あっ、話すといつもの由芽ゆめちゃんに戻った。


「うん、アパートの入居者が増えればね。今は一部屋しか埋まってないから」

「入居者を増やすってどうするの?」

「チラシをまくとか誰かに頼むとかかな? まぁ、そこは色々勉強してきて考えてきてはいるけど」

「そっかぁ。じゃあこれからここは、おじいちゃんたちの愛の巣から私たちの愛の巣になるんだ。愛の巣再建計画だね!」

「聞いてるこっちが恥ずかしいわっ! 天国のじいちゃんも顔真っ赤にしてるよ!」


 口に含んだお茶を吹き出しそうになってしまった。


「でも、そっかぁ~。どんな人が住むのかワクワクするなぁ」

「そう? 俺はお金が入ってくれればそれでいいんだけど」

「うーん……?」


 俺がそう言うと、由芽ゆめちゃんが腕を組んでなにかを考え込みはじめた。


想太そうたさん、イケメンだから女の子ばかりになったりして」

「そんなまさか」

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近所の女の子の「大きくなったらお兄ちゃんと結婚する」がガチなやつだった件 ~大きくなって再会した俺たち。子供の頃の口約束は時効だと言ってももう遅い?~ 丸焦ししゃも @sisyamoA

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