第2話 口約束に時効ってあるの?
「えぇえええ!? そんなのとっくに忘れてると思ってたよ!」
「ひどい! 私はずっと本気だったのに!」
「いやいや! 普通はそんな子供の口約束を本気だとは思わないじゃん! 時効だよ、とっくに時効!」
「口約束に時効ってあるの!? そんなこと言われてももう遅いもん!」
い、いや口約束に時効って――。
これを言ったらさすがに怒られそうだから黙ってよう。
「じゃあ、その話は後からじーーっくりということで!」
「後から!?」
「今は自分の怪我を治すことだけを考えて!」
「改めてだけど、助けてくれて本当にありがとね。また会えて本当に嬉しい……。これから
ひ、左手って……。
こんな子を前に、真っ先にいやらしいことが思い浮かんでしまった俺は相当ダメなやつだと思う。
「あっ、これからうちの親も来るからね」
「何故に!?」
「だって、私の命の恩人だもん。お兄ちゃんにお礼をしないとって」
「さっきから大袈裟だってば!」
「大袈裟じゃないよ。お兄ちゃんが助けてくれなかったら今頃私はどうなっていたことか」
「……」
「自分の身を投げ出してまで、誰かを助けようする人なんていないもん。やっぱり私の目は間違っていなかった!」
そんなこと言われたらこれ以上こっちからはなにも言えないよ……。
(
何故か今、死んだじいちゃんのそんな言葉を思い出してしまった。
◇
事故から丸一日が経った。
「――うん、うん、大丈夫だから。検査も問題なかったから、来なくても大丈夫」
親に電話をして今の状況を伝える。
びっくりするほど俺の体は丈夫だった。
精密検査は特に異常なし。
軽い
「お兄ちゃん、リンゴ食べるよね?」
電話を終えて病室に戻ると、
「なんで今日も
「未来のお嫁さんだから?」
赤くて長いリンゴの帯がしゅるしゅるとゴミ箱に入っていく。
包丁の扱いはかなり手慣れている様子だ。
「学校はどうしたの?」
「休んだ」
「
「うん、今年で高一になったよ!」
「どこの高校に通っているの?」
「近くの第三女子だよ」
「第三女子って有名な進学校じゃん。受験勉強、大変だったでしょう? せっかく優秀な高校に入れたのにもったいないよ」
「物事には優先順位がありますので」
「でも――」
「もー! お兄ちゃんは気にしすぎ!」
「ふがっ!?」
「それにお母さんもああ言ってたでしょう!」
◆
「まさか、
「気にしないでください。
「ご不便ありましたら、
「だ、大丈夫です! 大丈夫ですからもう頭を上げてください!」
「
◆
お嫁さん発言って家族公認だったのか……。
昨日は
逆に申し訳ないよ。ただ、咄嗟に体が動いて勝手に怪我しただけなのに。
「リンゴ美味し?」
「美味しい」
「はい、じゃあ次もどうぞ。あーん」
「あーん」
素直に口を開けてしまった。
何やってんだ俺!? 右手は問題なく動くのに。
「もぐもぐ」
「あはは、いい食べっぷりだね」
結局、リンゴ一個をぺろりと平らげてしまった。
俺にリンゴを食べさせ終えた
というか、その花はいつの間に持ってきたの……?
「生花って細菌が増えちゃうから、禁止されている病院が多いんだって」
「そうなんだ」
「これは造花だから心配しないでね。造花でも花があると部屋が明るく見えるよね」
なんというホスピタリティ……。
殺風景な病室が、たったの一日で綺麗な花で咲き乱れた。
どうしよう、やたらテキパキと世話を焼いてくれている。
正直、感謝されるのも世話を焼かれるのも悪い気はしていない。
でも、このまま年下の女の子に甘えるわけにはいかないよ。
それに丸一日考えたが、どうしても結婚するだなんて本気で言っているとも思えない。
……だって、俺と
「
「だからガチだって! 私、冗談でもそんなこと言わないもん」
ぷくっと頬を膨らませながら、
「お兄ちゃんの分からず屋!」
「そりゃそうだよ、だって最後に会ってから何年経っていると思っているのさ」
「八年と十日」
「カウントしてるのっ!?」
あっ、そういうところは昔とあんまり変わってないかも。
「ねぇねぇ、私、そんなことよりもお兄ちゃんの話が聞きたい」
「俺の話?」
「うん。今、なにしているかとか」
「なにしているって言われてもなぁ。普通の大学三年生だよ」
「大学すごいじゃん! どこの大学に行ってるの?」
「東京の世田谷にある大学だよ。法学部」
「法学部すごっ! じゃあ今、東京に住んでるんだ!」
「うん、引っ越す予定だけどね」
「引っ越す? なんで?」
……少し他人に話しづらい話題になってしまった。
俺は、相続するアパートの隣にあるじいちゃんちに引っ越すつもりでいた。
じいちゃんちは今は完全に空き家……誰も住んでいない。
ついでに言うと、その相続するアパートも一部屋を除いて誰も住んでいない状態だ。
「……」
その綺麗な目に当てられて俺は正直に今の自分の状況を話すことにした。
それに、この話を聞いたら
「……俺、借金あるからさ」
「しゃ、借金!?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます