第37話 港町散歩01
早速、タビアの案内で港町を見て回ることになった。
私とジェハールとタビアの三人で街を歩く。 ジェハールとルクリエディルタの意見も聞かずに観光案内を頼んでしまったが、二人とも特に不満はないらしい。ジェハールは折角だしいいんじゃね?と結構乗り気だ。
ルクリエディルタは猫の姿で着いてきてもらっても良かったが、しばらく召喚を解くことにした。契約後初めての解除である。ずっと召喚状態だったし、少しの間休憩しててもらおうと思う。
昨日は到着したばかりで港と宿しかちゃんと見ていなかったが、改めて見ると実に目に鮮やかな街である。
港から見渡せる大海原はサファイアの様に青く輝いており、これまた青い空の下に白い帆の張られた船がずらりと停泊している港の様子は圧巻である。アルバラグの王都の港もそれは凄かったが、こちらも負けていない。
市街地には至る所に太陽の描かれた赤い布が掲げられている。通りの殆どの建物の軒先に店を出しており、美しい色とりどりのランプや独特な幾何学模様の布が飾られていた。
「すごく賑やか。それに、綺麗なところですね」
「この港町はティブールといいます。アルバラグとの交易の要で、沢山の人と物が集まるのでとても栄えているんですよ」
ひと昔前はアルバラグ王国が一番の海洋国家だったが、近年はアルキパテス王国のほうが貿易が盛んで栄えているらしい。以前会ったアルバラグの果物屋の店主が、アルバラグは大陸一の海洋国家だと言っていたことを思い出す。地元の人々には実感はなくても、商人からすると現在の一位はこちらということだろうか。
アルバラグはこれまで奏華国の絹織物などの貿易を独占しアルキパテスに色々売りつけて儲かっていたそうだ。奏華までの道のりは地理的にアルバラグが完全に有利で、アルキパテスは貿易が困難。絹は需要があるため、手に入れやすいアルバラグの独り勝ちだったらしい。
しかしアルキパテスはここ数十年の合間に果物栽培やランプなどの工芸品の他産業を成長させた。アルキパテスに隣接する西方諸国との貿易が盛んになり、逆に今はアルバラグが不利なんだとか。
アルバラグとアルキパテスは大陸続きだけど渓谷と厳しい砂漠があって、海路じゃないと不便なのだと以前聞いたことがある。アルバラグは絹の貿易は有利だけど、アルキパテスより北の国々とは立地的にやりとりしづらいようだ。
「うちはアルキパテスにも商館を構えていますし、隊商で近隣諸国に品物を運んでいます。隣国の工芸品を扱っている店にも後ほどご案内しますね」
色々と説明を聞きながら通りの店を眺めて歩く。タビアの足取りはゆっくりで、私たちを気遣っているのがわかる。上客でしかも恩人という扱いなので、とっても丁寧である。色々な申し訳なさを覚えながらも、タビアの接待を受け入れた。
「わぁ、綺麗なランプ!」
モザイクガラスのあしらわれたガラスのランプが目に留まる。青、赤、緑に黄色、白。織物のような細かい模様が、色鮮やかで美しい。その他にも天然石できたブレスレットに、ネックレス。エキゾチックな雰囲気の商品が並べられている。
「見てみてジェハ」
「まあ綺麗だけど、必要かこれ」
「……必要は、ないけども」
「大体、旅の灯りには使いにくいだろ。こっちのオイルランプのほうが良くね」
「そうだけども」
そういうんじゃなくて、とジェハールの反応に悶々とする。ウィンドウショッピングという概念がないのか?いや、男の人って買い物だとみんなこんなもんだったかも。前世買い物に付き合って貰った時の父や弟の言動を思い出す。必要か不必要かだけでものを見てるわけじゃないんだけど、わからないものかな。
「イスルーカ名産のランプですね。他国からの人気も高くて、年々生産が盛んになっているんです。キレイですよね。私もすきです。ランプなんて沢山は使わないのに、つい欲しくなっちゃって」
「タビアさん……!ですよね!欲しくなっちゃいますよね!」
女性目線での同意に嬉しくなって距離を詰める。思わずタビアの手を握ってしまった。驚いて目を丸くしたものの、彼女は照れくさそうに笑って手を握り返してくれた。
前世ぶりの同性との触れ合いに、自分でも驚くほど心が踊る。人と関わらなすぎて麻痺してたけど、こういう他人と同じものを見たり共感したりする機会って大事だ。彼女に案内役を指名したイルハム、グッジョブ!
よくわからん、と遠い目をしたジェハールは放っておいて、タビアに引き続き案内を頼む。
ていうかジェハール、すっかり従者ムーブが消えてるし言葉遣いも戻ってるんだけど。タビアは特に気にしている様子はないし、まあいいか。
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