第35話 騒動のあと01



魔物を撃退した後、船はアルキパテスに到着した。


目的地に着いた事に安堵しながらも、私は内心絶賛後悔中である。

なぜか?またしても意図せず主人公みたいなムーブをかましてしまったからだ。穴があったら入りたい。そんな気持ちである。


どうしてこうなった?と現実を逃避せず考えてみる。


まず原因と考えたのは三つの要因である。その一、旅をしている。その二、キャラの濃い仲間がいる。その三、私は魔法の勉強中。この三点で、すでに何かの漫画の設定のようだ。


そんな中で危機が訪れて周りの人間が危ない状況になってしまえば、まあ流れはお察しである。『私がなんとかしないと!』みたいな気持ちが浮かんできてしまったのだ。前世の自分なら絶対考えられない積極性に、自分で引いている。


第三者目線、というか我に返って思い起こせば『使い魔に守られてればいいじゃん』とか『まだ大した魔法使えないのに無茶するなよ』『つーかかっこつけんな』とか思うのに。実際に自分がその時その場にいるというだけで、雰囲気と勢いで色々と流されてしまうのだ。実に不思議である。まじで意味わからん。


一連の己の行動に対しとてつもない羞恥心を覚えながらも、問題を解決できたことには心底ほっとしている。今回の件は、私に責任があったかもと考えているからだ。


私の魔力がバカみたいに多いせいで魔物を惹き寄せ船を危険に晒してしまった。それが事実かどうかの確認は出来ないのであくまで可能性の話だが、私が原因であることは否定できない。とりあえず一件落着。幸いにも船の乗組員も乗客も負傷者はいるものの死亡者はゼロ。船体や運搬していた商品への被害はかなりものだが、命があったことに皆泣いて喜んでいた。


魔法なんて初めて見た。と、驚かれながらも気味悪がられることは無かったのは幸いである。忌避される可能性もあったが、感謝の嵐を受けながら船でアルキパテスまで送り届けて貰えた。


​────そして現在。


私たち一行は、アルキパテスのとある宿の一室にいた。船長のイルハムが案内してくれた、アルキパテスの港町では高級なほうに入る宿だ。


「やはり今からでも他の宿を探した方が良いのではありませんか?」


ルクリエディルタが困り顔で私に提言した。人目が無いので猫の姿である。


「いや、せっかく船長さんが紹介してれた宿だし。それにもう日が暮れてるよ」

「しかし、姫様とこの男が同じ部屋というのは……」


嫌悪感の滲む声で言いながらルクリエディルタがジェハールを睨んだ。ルクリエディルタは宿の部屋が一つで、しかも私とジェハールが同じ部屋ということが不満らしい。彼はそんな言葉も目線も一切気に留めず、ベッドに寝っ転がって魔導書を読んでいる。


一部屋しか空きが無かったのだから仕方ないと思うのだが、納得いかないらしい。部屋は一つだがベッドは二つあるし、ルクリエディルタは猫型だから料金もかからない。代金もひと部屋分で済むし、むしろ私は良いと思う。が、ルクリエディルタ的には未婚の男女、しかも己の主が男と同じ部屋というのは許し難いという。言いたいことはわかるのだが、そんなこと気にしていられない。


「別に私は構わないし、ジェハも気にしてないよね?」

「お嬢さん相手にどうこうとか全く思わねぇから大丈夫」

「ほら、ね?」


こちらを見向きもしないままジェハールが私に同意した。


分かりきっていることだがジェハールは私相手に下心などない。十二歳の子供を相手にするほど彼は女に困っていないだろう。言い方は悪いが、この男が一晩の相手を引っ掛けようと思ったらかなりの女性が我こそはと名乗りを挙げるだろう。それくらいジェハールという男はイケメンなのだ。


ただし私に「お嬢さん見た目はまあまあだけど色気ねーし、ガキだし」とか言うのは余計な一言である。中身成人しているから寛大な心で許せるが、色気がないと言われるのは女としてちょっとだけ傷つくので。


「っ貴様!その言い様、姫様に対し無礼だと思わないのですか!!」


ルクリエディルタが激昂した。私の代わりに怒ってくれてなんと良い使い魔なのだろう。けど、そんなことに憤っても仕方ない。だってジェハールの言うことは事実だし。


「ルーク、どうどう。一緒に旅する以上、野宿の可能性だってあるし、同じ部屋に泊まるくらいで嫌々言ってられないから」

「ですが!」

「心配して言ってくれたのはわかるよ。ありがとう。でも納得して」

「…………」

「えー、"主からのお願い"です」


なおも渋るルクリエディルタにそう言い放つ。こう言われてしまえば彼は頷く他ないだろう。


「……姫様が、そう仰るのでしたら」


効果はバツグンである。むう、と不満げに耳と尻尾を垂れ下げながらルクリエディルタは引き下がった。しょんぼりしたもふもふも大変可愛い。


「それじゃ、今日は遅いしもう寝よう。ジェハも本おしまいにして、昨日も夜更かししてたんだからちゃんと休まないと!」


そう言いながらぱちん、と手を合わせた。旅は始まったばかりなのだし、今日は色々とあって疲れている。


不満そうなジェハールの本を取り上げ、灯りを消して眠りについた。


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