第32話 船室にて02
「あとは試してないのは闇と力の二属性だけだけど……ルークは闇の属性は使えないんだよね」
「はい。申し訳ありません」
光と闇って対極の属性っぽいし、ルクリエディルタが光の眷属であることが関係しているのだろうか。
「なら俺が教えよーか?」
「え?」
黙々とひとり魔導書を読んでいたジェハールが、視線をこちらに向け話しかけてきた。
「闇の属性魔法。俺、使えるし」
「そうなの?ていうかジェハ、魔法そんなに色々使えるようになったの?」
出会った日には"天賦の魔法"しか使えないと言っていた。その次の日には身体強化を軽々と習得し初歩の魔法もクリアしていたが、他の魔法の習得具合については聞いていない。ずっと本を読んでるし、てっきり魔導書で知識を詰め込んでいる段階かと思っていたのに。
「本読んでちょこちょこ実践してたし。色々覚えたんだよ」
既に五つの属性の初歩と簡単な応用は使える。とジェハールは言った。ちょっとドヤ顔気味だがむかつきはしない。イメケンだから許せる。というか、たった数日の独学でよくそこまで身につけられるなと感心してしまう。
「……ジェハって、もしかして天才?」
「今ごろ気づいた?」
いや知ってた。だって何でもそつなくこなすせますって顔に書いてある。ルクリエディルタといいジェハールといい、私の周りにはすごいのしかいないのだろうか。いや、私がポンコツすぎるだけか。
「でも闇の属性魔法?の、初歩くらいなら本読みながらやろうと思えば一人で試せるし……教えてもらわなくても大丈夫だよ。あんまり使い道無さそうだし……まぁ、闇の魔法ってイメージしにくいから他より難しそうだけど」
光はともかく闇となると想像しにくい。物質的な例えが難しいというか、光なら照明とか太陽の光をイメージするけど、闇って漠然としたイメージしかない。黒々してる敵の幹部が使う禍々しい魔法!みたいな。
「いや、お嬢さん見たことあんじゃん。闇の魔法」
「へ?」
ジェハールの言葉に思わず呆けた声が出る。見たことあったっけ。記憶にないことを言われて首を傾げた。
「俺の"天賦の魔法"。闇属性だよ」
「えっ。え?そうなの?」
それは知らなかった。ジェハールの"天賦の魔法"は影を操る魔法だ。それならば、初めて会った日に見たことがある。というより使われたことがある。地面の影がまるで蛇のように動いて、足首に纏わりついてきた。金縛りのように動けなくなった瞬間のことを思い出すと背筋がぞわっとする。
あれは闇の属性魔法だったのか。
「まぁ、俺もついこの前まで知らなかったんだけど」
先日書庫で読んだ本で、影にまつわる魔法は闇の属性にあたることを知ったのだとジェハールが言った。"影"というと、確かにイメージは暗いとか黒いとかそんな感じだ。闇の属性と言われれば納得する。
「……この者は"天賦の魔法"を授かっているのですか?」
「うん。影を操れるんだって。そっか、ルークには言ってなかったね」
「ええ。存じませんでした。珍しいですね」
ジェハールは自分から話さないだろうしわざわざ披露しないだろうから、知らなくて当然かもしれない。まして、ここにいる二人と一匹は出会って数日なのだ。お互い知らないことばかりである。
「"天賦の魔法"って珍しいものなの?」
「いいえ。"天賦の魔法"持ち自体は珍しくはありません。ヅェト様のご在学中の学院にも何人かおりました。──ですが、闇属性となると大変希少かと」
希少と言われてジェハールが軽く目を見開いた。ルクリエデイルタが言うには、"天賦の魔法"で多いのは、闇と光の以外の属性の魔法らしい。
「そうなんだ。すごいねジェハ」
「いや、別に」
素っ気ない返事をするジェハールにハッとする。そういえば、彼にとって"天賦の魔法"は親に捨てられた原因でもあるのだった。希少だと解っても、素直に嬉しいとは思えないのかもしれない。安易に褒め言葉をぶつけてしまった自分に後悔し、肩を落とした。
────その時だった。
「わッ!!えっ、なに!??」
船が何かに衝突したような衝撃で大きく揺れ、ガタガタガチャン!とテーブル上のカップやポットが床に転げ落ちた。
「……っ!!」
揺れに耐えられず椅子から転げ落ちて、身体が壁に打ち付けられる。ガツンと頭と肩を打って、思わず「イタッ!」と叫び声を上げた。
「姫様!!」
「あ、痛た……」
「お怪我はございませんか!?」
「だ、大丈夫。ちょっと強くぶつかっただけ」
ルクリエデイルタが私に駆け寄り、上体を起こしてくれる。
「びっくりした、何かあったのかな?ルークもジェハも怪我してない?」
「俺はへーき」
「私も問題ありません。しかし、何やら外が騒がしいですね」
揺れは少し収まったようだが、何やら船内が騒がしい。甲板の方から叫び声の様な声が聞こえてくる。ルクリエディルタもジェハールも、神妙な顔で上を見上げた。
「船同士で衝突でもしたか……それか、もしかしたら賊かもな」
「賊!?か、海賊ってこと!?」
「さぁ、知らねえけど」
「よ、様子を見に行った方が良いんじゃ」
そう言うと同時に、再び船が大きく揺れた。衝撃と轟音、叫び声。すっ、と一瞬で恐怖に胸が冷えるのがわかった。一体何が起きているのだろう。
「私が確認して参ります」
「俺も行く」
「えっ、なら私も行く!」
二人に続いて慌てて船室を出た。こんな状況で一人になるのはもちろんだが、トラブルで最悪船が沈む可能性とかあるかもしれないし。というか、あんな叫び声を聞いてじっとしていられない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます