第21話 我に返る01



(なにしてんの、私……)


翌朝目が覚めたベッドの上、私は昨日の自分の行動を猛烈に後悔していた。


(魔法学院目指すってなに……!!旅ってなに……!!)


両の手で頭を抱えながらかけ布団に顔を埋め、心の中で叫ぶ。


昨日の私は、ちょっと周りの状況に流されすぎていた。非日常感でハイになっていたとでも言うのだろうか、とにかく普段の私では考えられない言動をとってしまっていた。


(ていうか使い魔ってなに!!)


買い出しのために恐る恐る飛び出した外の世界で、想像よりもあっけなく異国へ着いたこと。粗暴な輩に絡まれるも魔法で撃退したこと。ジェハールに出会ったこと。そして、なんやかんやで使い魔を得たこと。


色々な要素が重なって、恥ずかしながら自分に万能感の様なものが生まれていたように思う。いや、昨日の時点ではそんな自覚はなかったのだが、今思えば調子に乗っていたかもしれないと思うのだ。この目と肌で異世界を体感し、起こる出来事がまるで主人公のようで舞い上がってしまっていたのだ。


でなければ、ものぐさな私が「私も魔法を学びたい」などとキリッとヒロインぶって台詞を吐くわけがない。めちゃくちゃ遠いらしい行き方もよく解らぬ北の果ての学院を目指そうなどと決意するわけが無い。これが前世の記憶など無い純粋な少女だったのなら、新しい世界に触れて志を立てる事になんら違和感はない。


が、悲しいことに私なのである。不本意な異世界転生のせいで基本的にやる気のない、中身成人女性の私なのである。


本当にいい歳した大人が何をやっているのだろう。思い出しただけで顔から火が出そうである。使い魔の契約もそうだ。契約時の口上の厨二病感といったらない。なんであんな台詞がスラスラ自分の口から出てきたのかが謎すぎる。


大体あんなにキラキラしたイケメンの、しかも神獣だというルクリエディルタと主従関係になるなんてどう考えてもおかしい。ジェハールもジェハールだ。口は悪いがめちゃくちゃ顔がいい。初めての外出であんなイケメンに出会うことある?しかも片方は猫の姿といえどこの二人と旅に出るだって?


(どこの乙女ゲームだそれは……)


我に返ってから振り返る現状に、もはや目眩がしてきた。


思い起こせば起こすほど、後悔することがありすぎる。一晩経ってからこんな羞恥が襲ってくるなんて。正直このまま布団から出たくない。もう全部無かったことになんないかな。穴があったら入りたい。いや、むしろ夢だったのではないか。昨日のことはすべて夢。もうそれでいい。そうしたい。


「​───お嬢さーん、起きてる?」

「​ッッ!!!おっ、起きてる!!」


コンコン、と部屋の扉がノックされて現実逃避から引き戻される。扉越しのジェハールの声に、夢じゃなかったと愕然とした。


「お、おはよう。ジェハ……」

「はよ」


慌てて寝巻きにショールを羽織り扉を開けると、今日も顔の整ったジェハールが立っていた。うん、イケメンって眩しいんだな。昨日の私は何故これに発狂せずにいられたんだろう。


「えっと、よく眠れた?」

「まあ、それなりに」


気だるげな顔でジェハールは頷く。私の旅の準備のためにしばらく泊まることになり、昨日は祖父の部屋で寝てもらったのだ。屋敷は広いので空き部屋はいくつもあるが、すぐに使えるベッドは祖父のものしか無かった。ルクリエディルタは使わせるのを渋っていたが、それしかないのだから仕方ない。


「あんな良い寝床で寝たの久々だったわ」

「それは良かった。朝ごはん用意しなきゃね」


引きこもりたいと思いつつもそうもいかない現実に、取り繕って会話をする。悲しいかな、やる気がなくても"やらない"というのは出来ないのだ。


一人ならばやらない選択が出来るけど、人前だと対人関係を気にしてしまって何だかんだ行動してしまう。この場から逃げたいと思いながらも、話しかけられれば受け答えは出来てしまうのだから不思議なものだ。


ジェハールとは学院に行くことを約束してしまったし、ルクリエディルタは私に仕えてくれる。学院を目指す旅に出るのは決定事項なのに、やっぱり引きこもりたいです昨日のことは無しにして!とは言えないだろう。それこそいい歳して何を今更わがまま言ってるんだって感じである。


「朝メシなら毛玉が何か作ってたぜ」

「ルークのこと毛玉って呼ぶのやめてくれる?」

「毛玉は毛玉じゃん」


見た目が猫だからかジェハールはルクリエディルタを昨日から毛玉と呼んでいる。ルークと呼んでいいのは私だけらしいから呼べないし、ルクリエディルタという長い名前はいちいち口に出したくないらしい。私が何を言ったところで止めてはくれないと思うが、一応何度か注意している。


一緒に旅をするというのに、こんな調子で上手くやっていけるのだろうか。なんか心配になってきた。


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