第13話 魔法使いの青年01
「────《
影が伸びてくる。
ジェハールの足元から、まるで生き物のように意志を持って影が緩やかに動いた。ズズズとソレは地面を這って私の足元に辿り着き、蛇のように私の足首に絡んで巻き付く。
「……ひっ」
巻き付いた影が足を固定し、まるで金縛りのようにその場で動けなくなってしまった。身動き出来ない焦りと、初めて見る他人の扱う魔法への恐怖。
どうしよう、と泣きそうになっていると、ジェハールは怯える私の顔を覗き込み私のローブのフードに手をかけた。
何をされるのかと目を瞑って身構えていると、被っていたフードをぱさりと下げられた。この国の女性に倣ってずっと隠していた髪が露わになり、思わず目を開いて顔を上げる。
こちらをジッと見つめるジェハールと、視線がかち合う。その居心地の悪さに、思わず目を逸らした。
「……あ、あの……?」
「あぁ、悪い。いま解くから」
ごめん。と小さく口にしながら、ジェハールは少し乱暴に私の頭を撫でた。いつのまにやら足元が軽くなっている。魔法を解いてくれたらしい。
(さっきから何なんだろう、この人。ぐいぐい話しかけてきたと思ったら、魔法を使ってくるし……自分で魔法をかけてきたくせに謝るなんて)
意味がわからない。
「───お嬢さん、"天賦の魔法"って知ってる?」
いきなりそう問われる。聞き覚えのない言葉だった。
「……?」
「知らないか。まぁ、生まれながらに持ってる固有の魔法らしいんだけど。俺には魔力があって、たまたまソレを持って生まれたの。───《
ジェハールが唱えると同時に、足元の影が動いた。影は大きな手の形になって、宙へ伸びながらぐるりとジェハールの身体を囲うように浮かんだ。先程の蛇のような影と同じく、影が意志を持って動いている。
「俺の"天賦の魔法"は、《影使い》。今みたいな自分の影や周囲の影を操ったりする魔法なんだけど、まあ気味悪がられてガキの頃に捨てられたんだわ」
「……は、はあ」
突然始まった身の上話に、戸惑いながらも耳を傾ける。ジェハールは私を襲った連中との面識はあるようだったが、仲間では無いと言っていた。
先程から意図の読めない言動をしているが、少なくとも私を拐おうだとか殺そうだとかの悪意を持っていないように思う。話を聞くだけなら、危険ではないだろうか。
「まあ座れって。とりあえず聞いてよ。俺は孤児になってこの国のスラムで育ったんだけど、スラムに魔法のことを知ってるジジイがいてさ。そいつに色々教わったの」
スラムに住んでいたその老人は魔法使いでは無かったものの、魔法使いの友人がかつていたそうだ。魔法の使えるジェハールに、友人に伝え聞いた魔法の話をいくつかしてくれたのだという。
「まぁ、ジジイの言ってることを他の奴らは信じなかったけどな。この国とか周辺の国には魔法は浸透してねぇけど、大陸の北のほうには魔法使いが沢山いるんだってさ」
「……そうなの?」
「実際のとこは俺も知らねぇよ。……ただ、世界中から魔法使いが集まるのが大陸の最北端、"エディルパレス"にある魔法の最高峰機関、"ベルメニオール魔法魔術学院"だって話」
名前だけは知ってる。なんて先程は言ってたが、思った以上に彼の持っている情報が多い。私は学院の存在はともかく、どの辺にあるのかなんてさっぱり知らなかったのに。
「……ええと、ジェハール?は……どうしてそれを私に教えてくれたの」
「お嬢さんがこの手紙を持ってたから。これ中身勝手に読んだけど、アンタの死んだ祖父さん、学院に喚ばれるほどの魔法使いだったんだろ?で、手紙の宛名は学院の関係者」
「……そう、だけど」
人の手紙勝手に読むなよ。と思ったが勝手に盗ってる時点で、この男に倫理観なんて期待しちゃいけない気がする。
「俺は魔力があるけど、"天賦の魔法"しかまともに扱えない。他の魔法を使おうと思っても、ここらじゃ魔法を使えるやつは異端だし、そもそも魔法の存在なんて知らない奴が殆どだ。学べる場所なんてない」
「えーと……つまりジェハールは、学校に行きたいってこと?」
「……ま、端的に言えばそういうこと」
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