第7話 旅立ち01




隠し部屋を見つけてから一週間後。


結局地図は見つからないまま、ひとまず旅に出ることにした。旅に出ると言っても、目的はあくまで買い出しだ。ただ、道をわからない上に街や店の場所も知らないというアテの無い道のり。一日で済む可能性もあれば、何日もかかるかもしれない外出である。


これまで屋敷から出たことの無い自分にとっては、今回の買い出しは旅、むしろ冒険と言っても過言では無い。


「……お金に食料、水、寝袋代わりの毛布。ナイフに、ランプ。それから……うん。よし、荷物はこれで全部かな」


肩からかけた革のショルダーバッグは、祖父のものだ。見た目に反する容量が入る空間拡張魔法がかけられあ魔法の鞄である。長旅への備えを万全に、とまではいかないが必要そうな沢山の物を入れてあり、買い出しする予定の荷物も全てここへ入れることが出来る。


「お守りも持ったし、大丈夫かな」


刺繍の入った藍色のローブを羽織り、守護の魔法陣が刻まれている魔石のお守り代わりに首からかけた。この魔石も、祖父の隠し部屋にあったものである。効果はいかほどか知れないが気休め程度に持つことにしたのである。


魔法の勉強は地図を探しながら一週間のうちに少し進めることができた。自身で使える魔法はまだまだ少ない。が、毎日魔導書を開いて読んでいただけで、勉強嫌いの人間にしてはよくやったと思う。


「​───よし!不安しかないけど出発!!」


気合いだけは充分に、私は勢いよく屋敷の扉を開いた。屋敷を無人にするのは不安だが、屋敷の護りの魔石へは魔力を充分に込めてある。薬草を育てている温室のほうも万全だ。初めて外出することへの不安と緊張を抱えながら、屋敷を何度も振り返り見ながら、私は屋敷の敷地を出た。


おそるおそる一歩。祖父の引いた敷地の結界の線を跨ぐ。この結界が外部から敵意のあるモノは入れないように護ってくれるのだと、祖父が言っていたのを思い出す。


「……出てみると、意外と呆気ない」


正直、結界を出た途端に何かに襲われて死んだらどうしよう。などと考えていたのだが、なんてことはなかった。結界の外は内側から見ていた景色とほぼ変わらぬまま、深い森があるだけ。


「暗いなぁ、森」


先の見えない暗さに、思わず一度立ち止まった。地図もない旅だ。右も左もわからない歩みが、怖くないわけが無い。けれどここで怖気付いては、何も始まらないのだ。この森を抜けて道を探せば、いつかは街へたどり着けるだろう。もしかしたら何日もかかるかもしれないが、その為の備えはしてある。迷ってもいい。とにかく歩いて、行動しよう。


「​大丈夫。なんとかなる!」


己を鼓舞するようにそう口に出して、森の奥へと足を進めた。


森の中は驚くほど静かだった。生き物の気配は殆ど感じられない。鳥の鳴き声や草葉の揺れる音が聞こえてくるだけ。魔法のあるファンタジーな世界だからといって、妖精や魔物が出てくる訳では無いらしい。期待していたわけではない。が、その可能性も考えていたせいか少し拍子抜けしてしまう。


「……って、あれ?……うそ、もう森を抜けるの?」


木々の隙間に白い光が差しているのが見えて、驚いて思わず足を止めた。暗くて深い森だと思っていたのに、ほんの数分歩いただけで森の終わりが見えてきた。森を何時間も歩くよりはマシだが、あまりの呆気なさに残念な気持ちすら浮かんでくる。


森を抜けるのは喜ぶべきことだが、問題はこの先に人の通るような道があるかどうかだ。はやる気持ちで、差し込む光の方へ足早に歩みを進める。


「お。抜け、た」


最後の一歩。鬱蒼と暗い森の苔むす地面から陽の差す地面へ足を踏み入れて、森を抜けた先の景色に目を丸くする。



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