第12話 鮮烈なデビュー
「皆さん、此処がルテリアスが誇る大演習場――別名闘技場となって……おや、どうされたのですか。高等魔導学科の案内は、あと半刻ほど先のハズでは」
宛ら古代の闘技場を思わせる客席と、広々とした広場にいくつかある円形の舞台。
その脇によく通る声で生徒らに説明をしていた教師が、コチラに気が付いてキョトンとした表情をする。
応じてコチラを見る別の学部の連中の視線から逃げるように、先頭に立つアドンが口を開く。
「……決闘だ、高等魔導学科の生徒が決闘を行う」
「――け、決闘っ?」
静かな声だったが、十分聞こえたらしい。
教師は目を見開き、ソイツが案内していた生徒たちは露骨に騒ぎ始める。
「決闘って……まだオリエンテーションですし――」
「“闘技場”や決闘のシステムの説明に丁度よいと思ってな。それに――」
アドンが、ゆっくりとコチラを振り返った。
「――連中、こうでもしなければ収まらんらしい」
まるで道を開けるようにアドンが横へ退く。
そうすれば見えるだろう。鋭く前を向くオレ、不貞腐れたように顔を背けるマリアンヌを先頭にする高等魔導学科の生徒らが。
「黒猫のガキンチョと……お貴族様?」
「……前者は高等魔導学科のヴァルナークね。入試の座学はヴェインと並んでトップ、実技もかなり良好だって聞いたわ」
魔導兵学科の生徒と思しき粗野な竜人の男と、魔術法務学科らしきツインテールの少女がそう囁くのが聞こえる。
「……金髪の子はマリアンヌさんだね。フィルトハイト家の御令嬢で、非常に優れた魔導の才をお持ちだとか」
他の学科の生徒のザワめきを余所に、先に案内に来ていた教師がアドンに駆け寄った。
「……その、どうしてそんなことに?」
「――色々あってな。教室の中で危うく殺傷事件になるところだった。ヴァルナークの方が決闘を申し込んでな、マリアンヌ嬢も了承した。立会人として、二級魔導師の私が立つ。心配はいらん」
目の前の教師より魔導師としての格が上なのか、そうアドンが言えば教師の女は引き下がった。
「……分かりました。では魔導兵学科と魔術法務学科の生徒を下がらせますか?」
「そうだな、そう――」
そうしろと言おうとしたところで、マリアンヌが露骨な咳払いをして差し込む。
「それには及びませんわ。彼らにもワタクシの魔導の腕を見て頂きたいですもの」
フフン、とでも言いたげに胸を張ったマリアンヌ。
自信たっぷりに割り込まれたからか、少し目を細めた後、お前はどうだと言わんばかりにオレに視線を投げるアドン。
オレは肩を竦めて、マリアンヌに流し目をくれてやる。
「派手に負けて吠え面かくトコ見て欲しいなんて、貴族のお嬢さんってのは変わってるよな」
そう煽りをくれてやって、トドメに軽く舌を出して見せれば、マリアンヌがギリっと歯を食いしばるのが分かる。
この程度の挑発で乱れるようじゃ、到底オレには敵うまい。
既にオレの戦いは始まっているのだから。
更に強くなる見物人のザワつきを背景に、眉間を押さえたアドンは仕方なさそうに頷いた。
「……よろしい、では先んじてきていた他の学部の生徒にも、見学の許可を出そう。どの道、模擬戦闘で実演する事には変わりなかったのだから」
――まあ、決闘などと物騒な事になるとは思わなかったが。アドン講師は、最後にそう付け足すのを忘れなかった。
◇◇◇
――決闘。
……それは、学院のルールに明文化された仕組みの一つである。
“才覚に貴賤無し”――ソロモン魔術評議会が必要とする有望な魔導師を輩出する為に、学院が苦心して定めた決闘というルール。
平民も貴族も学院に来る以上、身分による確執は免れない。
そして世界の仕組みの中心を担う魔導師、次世代の育成所とは、得てして権謀の舞台になりやすい。
そういった場で謀るのは常に貴族などの権力者。
故に決闘とは、その貴族に対してのルール……そういってもいい。
決闘という機構自体は単純だ。
一方が決闘を申し込み、一方が許諾すれば成立。
三級以上の魔導師が立会人となり、互いに戦う。
死亡、または再起不能な大怪我を負わせる以外ならあらゆる魔術的手段を尽くして構わない。
ただし事前に武器を持ち込み、使用するのは禁止。
敗北を宣言、または立会人が一方の戦闘不能を確認すれば終了。
――では、何故それが貴族への制御となるのか。
これが単純な話で――要はメンツの問題なのだ。
ルテリアスに学びにくる貴族の子は、当然家の名をぶら下げている。
故、決闘という公の場での敗北は家名に著しく傷をつける行為。
そのリスクを恐れる貴族と、負けても失うモノの少ない平民。
認識の違いによる抑止力を目的とした学院の規則。
――だが時折、血の気の多い貴種がいるのもまた慣例。
「零れた水は盆には返らない。己の驕慢を土の味を以って贖うがよろしい」
――例えば、彼女のように。
……ルテリアス魔術学院、大演習場。
別名闘技場とも言われるこの場所は、名の通りの造りとなっているが、古代のそれらと比較して異なる点は、舞台の多さだろう。
中央に円形の石舞台、そしてそれの四方に同じものが。
仮に上空から見下ろせば、賽の目の五の文様を思わせる造りになっている。
平素は模擬試合を行う場所の為、このように複数のステージが用意されているのだが――今回は決闘。
必然のように使用された舞台は中央の最も目立つ場所。
直径20メートル以上はあろう舞台の上、フィルトハイト伯爵家令嬢、マリアンヌは貴種に相応しい態度で吠えた。
「そうして這いつくばって漸く、我がフィルトハイト家への、ひいてはワタクシへの無礼を詫びれるというモノです」
舞台の周りには最初にいた二つの学部、そして件の黒猫と令嬢を連れて来た高等魔導学科の生徒たち。
野次馬として見物する生徒たちが口笛を吹くような痛烈な物言い。
如何に魔導の道を往く者、貴種に生まれ付いた者といえど、やはり目の前で起こる珍事は見逃せないのだろう。
「よくもまあ、そうつらつらとアホみたいな鳴き声だせるよな」
――吼えたマリアンヌを逆撫でるような、少年の声。
「遅刻して? キレて? 挙句の果てに教室で不意打ち?」
……声の主は黒猫の獣人だった。
漆黒の毛並み、白い模様が目立つ猫の顔。
鋭い金色の瞳と、獰猛に吊り上がる口と牙とが、マリアンヌより小さな彼を傲慢に見せる。
煽るようにヒョロリと揺れる尻尾は、ともすれば言葉以上にマリアンヌの機嫌を損ねるだろう。
「お貴族様ってのは、随分と高尚で高雅な趣味をお持ちで……」
――黒猫の少年、ミトラ・ヴァルナークは肩に掛かった束ねたタテガミを指で弄り、流し目を送ってやる。
「――でもこれ以上下らねえナマこかせるのも可哀そうだから、ここいらで分からせてやるよ」
特大のブーメランなのでは――見物していた生徒らはそう思った。
「……お貴族様、あの黒猫以上に生意気こいてる気はしないけどなぁ」
――思うだけではなく、口に出してしまう生徒もいたらしい。
そう声を出した竜人の生徒をミトラは一睨みし、そして改めてマリアンヌを見つめる。
「このミトラ様との
一通り煽り終えた瞬間、ミトラの表情が変わる。
驕慢が滲む猫から、敵対者を見据える捕食者へ。
「来い、バカ貴族。お前の欺瞞と傲慢、悉くを叩き潰してやる」
「――ケダモノがッ! 吐いた唾は飲み込めませんことよ!」
続いた口撃に耐えかねたように、圧力さえ伴く怒気を発し憎悪を以って睨むマリアンヌ。
「うわこわっ……」
「……アレだけ煽られたら、そりゃね」
「……ちょっと心配だけど、頑張って、ミトラ君」
竜人が顔を引きつらせ、ツインテールが応じ、幼馴染が静かに祈る。
両者の間に立ったアドンが、二人を交互に見つめ――そして高らかに手を挙げた。
「両者、構え!」
鋭い声。応じてマリアンヌが剣指を結び、ミトラは軽く身構える。
「――魔導王ソロモンの天秤に於いて、欺瞞無き闘いを。……始めッ!!」
――開始の宣告。
マリアンヌ・フォン・フィルトハイトが即座に印を結んで、詠唱の準備に入ったのと対称的に、ミトラはそのまま動かない。
「――先手は譲ってやるよ、お嬢様」
戦いに入って尚相手を煽るミトラに、マリアンヌは歯を食いしばる。
(――舐めやがって)
怒りを発するのも束の間、即座に意識を切り替えて、マリアンヌは全身へ秩序だった魔力を巡らせ、シルクのように滑らかに術式を起動した。
「後悔する事になりますわよ――〈
刹那、浮かぶ円形の術式より武骨な剣が現れた。
剣がマリアンヌの手の中に収まった瞬間、ズジリと体勢を沈ませる。その折、マリアンヌの剣が勢いよく地面を衝き、ズガンと派手な音を立ててめり込んだ。
元素系統第四階梯〈重撃武装〉――熟達した戦士でさえ振るえぬほどの質量を込めた武装を造り出す術式。
その質量は異常の一言に尽き、現にマリアンヌが持つ剣は少女でも振るえそうな丈だが、只地面につけただけで石の舞台が砕けてめり込むほどである。
自在に操るには肉体能力と相応の技術が必須。
故に扱いが難しく敬遠されるが、直情的なマリアンヌにはこの術式が驚くほど手に馴染んだ。
「行きますわよ!」
魔力を身体に巡らせたマリアンヌが、カカトを地につけ一息に踏み込む……!
刹那、華奢な肢体からは想像もつかぬ速度でミトラへと吶喊――!
「へぇ……」
突進の勢いを乗せた斬り上げが迫っても余裕を崩さぬミトラが、微笑を湛えて軽く回避。
字句通り猫の機敏さで跳び、マリアンヌの追撃をいなしていく。
「羨ましいよ、オレ昔から非力だからさ」
やけになって連撃を当てようとするマリアンヌを躱しながら、神経を逆撫でるセリフを吐き続ける黒猫。
「ぐっ、ちょこまかと!!」
応じるワケでもなく、ひたすらに回避を重ねて煽るミトラにマリアンヌの神経は苛立ちを超えて赫怒の領域まで差し掛かろうとしていた。
「だって当たったら死んじゃうじゃん。殺しちゃダメなんだぜ、決闘って」
「安心なさい、ここは天下のルテリアス! 治癒魔導師が辣腕を振るって下さるでしょう、貴方の身体で!!」
回避を続けながらそう煽り続けるミトラに、見物人らも不満が溜まり始めた。
術で応戦さえせずに回避に徹するのみ。至極当然の反応といえた。
「……あのガキ、大見得切った癖に逃げてばっかりじゃねえか」
「……大丈夫、きっとミトラ君には何か考えがあるんだ」
見物の生徒らがそれぞれの反応をする中、近接での回避に徹していたミトラが一気に距離を離す。
(そろそろ……仕掛けるか)
距離を取り、マリアンヌを正眼に捉えるミトラが腰を落とし、剣指を結んで突きつける。
「――〈
淀みなく魔力を発し、速律詠唱で起動した元素系統第一階梯〈火線〉が、マリアンヌに向かって放たれる。
小さな火の矢がマリアンヌ目掛けて射出。ゴウっと音を立てて迫るそれを、彼女は不敵な笑みを浮かべて切り払った。
「この程度で――っ!?」
打ち落として、息を呑む。
マリアンヌ向けて迫る二の矢、三の矢。――いや、そんなものでは済まない。
火竜の息から、或いは祝祭の花火か、十や二十では利かない数の火の矢が驟雨の如く殺到する!
「くうっ……味な、真似を!」
ズダダダと音を立てて舞台に突き刺さる火炎。最初は剣で叩き落すマリアンヌだが、堪らず地面に手を突き、元素魔法で分厚い岩の壁を造り逃げ込んだ。
「ハッ! 上出来なリアクションだな!」
牙を剥いて嘲笑うミトラは、その間にも術式を詠み続け矢を嵐の如く打ち続ける。
「詠唱破棄……いや、全て速律詠唱か」
立会人のアドンが、ミトラの術式を見てボソリと囁いた。
最初から詠唱無しで唱える「詠唱破棄」は、魔力を余分に費やす事で成している。
だが速律詠唱とは、兎に角素早く――それこそ詠唱破棄と見紛う速度で術式を完成させる技術。
例え第一階梯といえど、嵐の如く殺到する〈火線〉の全てを、言うなれば一から唱えている。
演算速度、精度、魔力運用の巧さ、それこそがアドンの瞠目した魔導の正体。
「なんつー弾幕だ……」
「あんな詠み方したらいくら魔力あっても――ウソ、アレ全部速律詠唱? なら魔力の消費は最小限で済む……けれど」
――どんな
ツインテールの少女が呟いた驚愕は、突き刺さる無数の火炎の轟音に呑まれて消えた。
「猪口才なっ……!」
「さっきまでとは違って随分情けねぇ姿じゃねえの! そーやって引きこもんのがフィルトうんたらの流儀ってか?」
火炎の連撃が壁に突き刺さる轟音と共に飛ぶミトラの勝気な声。
空き始めた壁の隙間から覗くマリアンヌの表情は、怒りと焦りが綯い交ぜになっていた。
……近接に優位な接近を嫌われ、魔導師得意の遠隔に持ち込まれる。
その上プライドを刺激する煽りが飛んでくるのだ。冷静さが次第に削られる……無理も無かろう。
だからこそ、打破しようとマリアンヌが躍起になるのも無理からぬ事。
「舐めるのも……いい加減になさい!!」
ガラリ、とマリアンヌを守る壁が崩れ、その瞬間鈍く輝く鉄の槍。
〈火線〉の連射により壁が崩れた瞬間、瓦解する石ごと貫くように〈
「うおっと」
今度はズレなく、殺意たっぷりに飛んで来た鉄の槍を軽く回避。その折に詠唱が解け、雨の如く降り注ぐ〈火線〉が終わった。
「よくも好き勝手に、やりたい放題してくれましたわね!!」
今までの煽りと先まで圧倒されていた怒りを返すように、意趣返しじみた〈串刺〉の連打。
射出射出射出――ゴウっと鈍い音を立てて飛ぶ鉄の槍がミトラへ何本も向かう!
「あぶっ……」
持ち前の俊敏さと身体の小ささを生かして回避し続けるものの、何本も刺さり続ける〈串刺〉が、逃げ回るスペースを着々と潰していく。
「ミトラ君っ……」
あと十数秒も続けば、やがて回避は不可能となり、魔術で防ぐ必要が生じる。
だが先のミトラとは違い、マリアンヌが放つのは第三階梯。火力が圧倒的に違う。
つまりこの先に待っているのはミトラの敗北。
幼馴染が悲痛に目を細めるのも無理はない。
だが――
「――あっ」
ツインテールの少女が何かに気づき、同時にアドンの目が鋭く変じる。
「これでっ……終わりっ!」
第三階梯を連射し続けたせいか、魔力を損耗し額より汗を流すマリアンヌの、勝利の予感に満ちた笑み。
――刹那、中空を踊るような回避の後、着地した瞬間剣指を突きつけたミトラ。
「――〈
刃のような金色の瞳が真っ直ぐにマリアンヌを捉え、獰猛な笑みを浮かべた後放つ術式。
「っぐ……!?」
瞬間、マリアンヌは揺らいだ。
酷い汗が浮かび、脳内は高熱を出したように混濁する。
まともに立つことさえ出来ず、二本の足で上体を支える事さえ難事に思える。
直後、急激に身を襲う虚脱感に抗えず、彼女はゆっくりと倒れた。
「……」
派手な魔術戦の応酬、その決着にしては唐突。
だから舞台は酷い静けさに満ち、誰もが目を丸くしていた。
「……決着! 勝者、ミトラ・ヴァルナーク!」
冷たい静寂を破ったのは、立会人アドンの腹に響く宣言。
「「「……」」」
見物の生徒らが沈黙する中、ミトラは自慢げに腕を組み、ニカっと笑って見せた。
「――おめでとう! やっぱりミトラ君はスゴイよ!」
エメラルド色のポニーテールを揺らし、若葉のような目をキラキラとさせて、思い切り、心のままにミトラを全力で祝福するイリス。
「すっげえなあのガキンチョ、言うだけある」
「……ええ。確かに。けれど今のは――」
彼女に続いて、見物人たちもミトラへ思い思いの歓声と感想とを投げ始めた。
ザワつきめいたそれはやがて喧噪へ変わり、勝利の熱気が舞台を渦巻いていく。
「……っ」
地面に伏して気分の悪さに呻いているマリアンヌは、どうにか顔を上げて気持ち良さそうに歓声に応じているミトラを見る。
彼女に気づいたミトラは、小さく舌を出してから勝者に相応しい傲慢さでマリアンヌを見下ろした。
「これに懲りたら、あんまナマこくのはやめとけよ」
「……どう、やって」
「ん?」
トドメとばかりに送った助言に返ってきたのは疑問。
ギリっと歯を縛り、睨みつけるように見上げるマリアンヌ。
「どうやって、ワタクシを……」
確かにミトラを追い詰めていたマリアンヌ。
だがその有利は一瞬で消え、気づけば何故か地面に伏していた。
まさに「魔法」だ。
屈辱よりも怒りよりも先に、この高慢な少女に疑問が生じるのは当然と言えた。
察してか、ミトラは意地悪な笑みを浮かべて口を開ける。
「知りたいか? なら、教えてやるよ――」
マリアンヌを一瞬で倒した魔法の正体。
それは精神系統第一階梯〈
不快感を増やす、とは言ってもその効果はたかが知れており、所謂暗示程度の効力しかない。
到底、魔導師を戦闘不能に追いやるような威力は無い。
だからミトラは誘導した――マリアンヌが追い詰められるように。
教室でのやり取りは兎も角、決闘すると決まった時よりミトラはマリアンヌを過剰に挑発していた。……正直やり過ぎではと思うくらい。
挑発されて生じる心のさざ波などたかが知れているが、それでも積み重なれば波涛になる。
そんな中、追い詰められたらストレスは加速する。
決闘での一転攻勢はそれを狙っての事。
そして追い詰めればリソースを気にせず打破しようとする。
その証拠に、マリアンヌはミトラの連撃を破ろうと第三階梯の強力な魔法を連射した。
マリアンヌが使った〈
それを詠唱破棄で連打するとなれば、魔力はガリガリと削れていくだろう。
そして、魔力の急速消耗は精神力を酷く削る。
当たり前の事だが、魔力を使えば疲れる。そして急速に使えばもっと疲れる。
頭痛や倦怠感、そして虚脱感が一挙に襲うだろう。
それが魔導師には付きまとう魔力問題。
普通は急速な消耗に時を掛けて慣れていくものだが……。
如何に才覚があろうと、入学したての少女にそれを望むのは酷だ。
だからミトラは誘導した。魔力を多分に消費するシチュエーションへ。
――大技を打ち、魔力損耗によって精神的なストレスが募る瞬間、〈惑乱〉が刺さる。
如何に第一階梯の暗示といえど、魔力損耗のストレスを増幅すれば戦闘不能に追いやる事も可能。
まるで魔力を全て使い切ったかのような感覚に陥る事だろう。
……そう、魔力切れ。
ミトラは精神魔法によって疑似的な魔力切れを作り出し、以ってマリアンヌを撃破したのだった。
「……〈
「……あの時から、お貴族様を倒す為に?」
「ええ。正直、かなり鼻につくけれど……アイツの実力は、本物みたいね」
両手を広げ、歓声を全身で受けるミトラ。
盛大なネタバラシを喰らい、屈辱から顔を伏せるマリアンヌ。
そしてその様子を眺める生徒達。
ミトラ・ヴァルナークの学生生活は、酷く騒々しく幕を開けたのだった。
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