第8話 合格発表

 よっすよっす、オレはミトラ・ヴァルナーク十一歳――絶賛、合格発表待ちだ!

 ルテリアス魔術学院の合格発表は、きっかり一週間で出る。

 試験後村に戻ったオレ達は、ソワソワとした日々を過ごしている内にあっという間に一週間が経とうとしていた。

 

「いよいよミトラの合格発表日! 楽しみね!」


 そう張り切るのはシスター・イゼルナだ。

 オレが試験を受けに行く時も張り切っていたが、今日はそれ以上である。

 

「なんでもいいからさ、早く服決めてくれよ」


 何時ぞやのようにオレはあれよあれよと洗われ、身体を拭き終わったら着せ替え人形である。

 服なんて最低限見苦しくなければどうでもいいと思うのだが、イゼルナは中々決めてくれない。

 

「……うん、この服が一番似合うわね」


 オレが急かすと、ようやく決めてくれた。

 やっとかぁ。ったく、さっさと着替えないと馬車に遅れちゃうって。

 胸中で毒づいている内に、オレはようやく用意された服に袖を通す。


「可愛いわよ、ミトラ」


「そう? んじゃオレ、行くね。そろそろ遅れそうだし」


「あらもうそんな時間……ごめんなさい、いってらっしゃい」


 あらやだとでも言いたげに頬に手を当てるイゼルナに白い目を向けてから、オレは荷物を纏め、少し慌てて孤児院を後にした。

 村の中を走り、入り口に辿り着けばそこには馬車とイリス、彼女の父が既に待っていた。


「おそーい! ミトラ君遅いよ!」


「悪い、シスターが中々離してくれなくて」


 オレを見つけるなりプリプリと怒るイリスをなだめ、彼女の親父さんに一つ礼をした。


「すいません、遅れちゃって」


「いいや、大丈夫さ。さあ、行こうか」


 鷹揚な親父さんに感謝しつつ、オレはイリス共々馬車に乗り込んだ。

 早速とばかりに馬車が動き出し、名もない小さな村を後にする。

 ゴトゴトと揺れ動く、あまり乗り心地のよくない馬車に揺られ、オレ達は再び学術都市アルドーンへ向かった。






 再びのルテリアス魔術学院は、試験当日と同じくらい盛況だった。

 結果が発表される日だし、当たり前っちゃあ当たり前だが。


「うぅ、キンチョーする……お腹痛いよぉ……」


 合格発表が出されるデカい掲示板の前に群がる受験生の一番後方に立つオレとイリス。

 隣に立つイリスはソワソワとして落ち着かない様子で、そんな情けない事も言っていた。

 いつもは自信過剰なくらいで鬱陶しいのに、肝心な時にはこのザマか。

 

 まあいい、今は結果発表! このミトラ君が見事にバッチリ華麗に、合格を決めた事を確認しないとな!

 ワーワーと群がる受験生らをかき分け、どうにか掲示板の前まで辿り着く。

 デカい掲示板にはずらりと番号が並んでいる。それぞれの学部ごとに分かれており、少し目を走らせると「高等魔導学科」の合格者が記されていた。


「――22番、27番、29番……」


 並ぶ番号を読み上げながら、オレは段々と込み上げてくる期待に胸を膨らませる。

 

「31……33……37――おっ、38番、みっけ!」


 そしてついに発見した自分の番号を見て、オレは小さく快活な声を叫んだ。

 ククク、やっぱり合格していた。オレの実力なら、当然の結果だな!


「39番!! やった、私も合格してたぁ! 良かったぁ……」


 続いてイリスの受験番号も記されており、彼女は満面の笑みを浮かべて飛び跳ね、続いて安堵したように溜息をついた。

 うん、イリスも合格していたようで何より。

 まあ、コイツの指導をしたのはオレだし、受かって当たり前だな!


「うう……良かったよぉ……」


「当たり前だろ、オレが教えたんだから」


「もう、ミトラ君ってば」


 そんな風にじゃれていると、悲喜こもごもの声が聞こえてくる。

 言うまでもなく、他の受験生らだ。


「よっしゃぁ! 受かったぜ! これで兄貴にどやされずに済む!」


「……ふう、一先ず合格みたい。良かったわ」


「合格か、まあ当然だな」


 一際キザな声を上げていたのは、受験当日にオレを蹴飛ばした貴族のボンボンだ。

 ちっ、このオレを蹴っ飛ばした分の報復はなさそうだな。

 貴族のボンボンを眺めていると、コチラに気づいたようで、一瞥の後、


「ふん」


 と、あからさまに鼻を鳴らして見せた。

 はー、全く鼻につく野郎だ。


「……べーっ」


 ムカついたオレは奴に舌を出し、応じるように煽ってやる。


「ちっ、ケダモノめ」


 あの野郎はそう返す事を忘れずに、オレ達に背を向けて先に学院に入っていった。

 多分、諸々の手続きをしにいったのだろう。


「けっ、まあいいさ。オレはオトナだからな」


 消化不良で終わった小さな復讐。

 アイツが落ちてでもいれば、思い切り煽ってやったものを……運のいい奴め。


「もう……ミトラ君ってば」


 そんなオレの胸中を察したのか、イリスは窘めるように言った。


「んだよ、お前だって『なんで言い返さないの~?』とか言ってただろ」


「そうだけどさぁ……」


 ぶーぶーと不満を垂れるイリスを連れて、オレは学舎の受付に向かい、早速とばかりに入学手続きを行う。


「ミトラ君って、やっぱり怒らせると怖いよね」


 未だそんな風に言うイリスを横目に、オレは手続きを済ませる。

 遠方から来るヤツも多いので、発表日当日から入学受付と学生寮への入寮手続きを行えるのだ。

 じゃないと大変だしね。


「まあ、イリスも精々オレを怒らせないよう、定期的に機嫌でもとっておくことだ」


「ミトラ君ってホントゴーマンだよね」


 案外難しい言葉知ってるじゃん――なんて思いながら、その日は終了した。

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