第6話 入試開始!
オレ達が入った学舎には、デカい掲示板があり、そこに自分が向かうべき場所が書かれていた。
「受験番号……38番、ミトラ・ヴァルナーク。あったぞ」
「受験番号39番、イリス・ローゼンベルグ、みっけ! 一緒の教室だね!」
ずらっと並ぶ数字と文字の群を素早く読み解いたオレ達は、自分が向かうべき試験会場を確認した。
魔術学院といっても、色々分野みたいなのがある。
オレ達はその数ある分野から、「高等魔導学科」を選んでいる。結構なエリートらしいが、まあ多分受かるだろう。
デカくて綺麗な講堂を歩いていくと、オレ達は目的の教室へ辿り着いた。
これまた大きな教室だ。両脇の壁はガラス張りで大きな窓が設けられている。
……ガラスの窓って、凄いな。
正面には教壇と大きな黒板。そしてそれに向かうように、段差を設けられた講義机と席。
学院の教室は、大体このような造りになっているとか。
「ここも綺麗だねぇ。何処に座ってもいいのかな?」
「いいんじゃねえの? そうだ、窓際座ろうぜ。ガラスの窓なんて、孤児院の教会でも見なかったし」
「そうだね! 窓際いこう!」
ということでオレ達は日当たりのいい窓際に座って待つことにした。
太陽がポカポカしてとてもいい感じだ。
「ぞくぞくと入ってきたね。みーんな受験生かな?」
「そりゃそーだろ。じゃなきゃ学院に来ないし」
横に伸びる講義机に突っ伏して、太陽の温かさに身を委ねていたオレは、横目でチラリと教室を窺う。
中にはオレ達以外にも受験生が集まり始めてきていた。
「高等魔導学科」は、それなりのエリート故か、さっきデカい学舎に集まっていた人数にしては、ちょっと少ないように見える。
まあ、それだけライバルが少なくて済むって事か。
「時間までまだあるっぽいね。どうしよう」
「予習でもすればどうだ? イリスの頭じゃ試験心配だろ」
「ミトラ君のイジワル! だったらミトラ君もいっしょに予習しよーよ」
「オレは完璧だし。時間まで寝る」
「もう!」
文句を言いつつも持って来た鞄から本を出したイリスを横目に、オレは本格的に眠りに入ることにした。
試験前、英気を養っておくべきだろう。
「――トラくん。ミトラ君、起きて、そろそろ始まりそうだよ」
日当たりで心地よく眠っていると、ゆさゆさとイリスが優しくオレを起こす。
眠気で腫れぼったい目を擦り、一つデカイ欠伸をすると、オレは未だトロンと眠い視線でイリスを見る。
「ふはぁ……ん、おっけー。起こしてくれてサンキューな」
「えへ、うん、いいんだよ。ていうか、寝起きのミトラ君って、なんだか情けなくて可愛いね」
「ちゃんとウザくて安心だ。起こしてくれた好感度が、今ので全部消えた」
「えっ!?」
大袈裟なイリスを尻目に、オレは教室内を見回した。
席はある程度の間隔を空けながらも、それなりには埋まっている。でも教室のデカさを考えると、ちょっと寂しい感じだ。
「――時間になった。これより高等魔導学科、筆記試験を開始する」
教壇で何やら資料やらを読んでいた厳めしいおっさんが、よく通る声でそう宣言する。
その言葉に私語なんかでざわついていた教室が鎮まる。
「高等魔導学科、試験担当のアドンだ。一次試験、筆記。そしてその後、二次試験の実技を行う。まずは筆記試験だ。ルールを確認する!」
おっさん――アドンなる試験官は、持っていた資料をパサリと教壇に置いた。
「筆記用具以外の持ち込みは禁止。無論他者との意思疎通、及びカンニング等不正行為も禁止。試験中の魔法行使も禁止とする。では質問は?」
アドンの問いかけに答える者はいない。それを確認した強面の試験官は、満足げに頷いた。
「よろしい。では、問題と試験用紙を配布する。筆記用具を持参していない者は申し出る事。コチラで貸し出しする」
これより一切の私語会話は禁止――もう試験は始まっていると心得よ。そう締めくくったアドンは、順番に試験用紙を配布する。
オレも紙を受け取り、チラリと問題を眺める。
……ふむ。まあ、問題なさそうだな。
「行き届いたな? 試験時間は60分! これより、高等魔導学科、筆記試験を開始する。――はじめっ!」
オレは取り出した羽ペンをくるりと回し、掛け声と共に試験に臨んだ。
……問題自体はそう難しいモノじゃない。
まず基礎的な魔法の知識だ。魔法の取り扱いから、魔力というモノについての簡単な記述問題。
そして魔法の歴史のさわり、あとは魔導師なら誰でも使えるくらいの魔法の詠唱文と効果の記述。
最後に、高等魔導学科に入学してから、やりたいこと目指す事の自由記述で終了。
うん、まあ満点だろう。
10分行くか行かないかくらいで終わったな。どうしよ、クソ時間余ってる。
見直しも済ませて、ケアレスミスさえない事は確認している。
そうさな……まあ寝るか。
インク瓶が零れぬよう蓋を占めて、オレは机に突っ伏して再度眠り始めた。
「――終了! 筆記用具を置け。用紙を順に回収する」
デカい声で再び起こされたオレは、二回目の睡眠の後と言う事もあって、すっきりと目覚めた。
「うにゃ、もう終わったか? 試験」
横で不安げに貧乏揺すりしているイリスに、オレはそう話しかける。
「うん、今終わった。どうミトラ君、出来は?」
「まあ満点だろうな。余裕で」
「すごいなぁ自信。私もまあ、うん、多分大丈夫。ちょっと不安なところもあるけど、ミトラ君といっしょに勉強した所ばっかだったし」
「そうか。まあ実技もある。多少筆記が悪くても、実技良ければ問題無いだろ」
「うん、そうだね。そっちは自信あり! いっぱい練習したから!」
アホっぽい顔でそうガッツポーズをするイリス。
実にバカみたいだが、コイツの魔法の能力に関しては、オレも認める所だ。
ハーフエルフだから、本人の才能か、或いは遺伝ってヤツか、イリスはやたらと魔力が多い。
その豊富な魔力に任せてコスト高めの呪文バンバン打つもんだから、たまらないだろう。
「ミトラ君は実技の自信、どう?」
「まー、そこそこだな」
そういうと、イリスはふーんと気のない返事を返した。
実際、自信はそれなりだ。
イリスみたいに魔法をアホみたいに連打――なんて芸当は、今のオレの魔力量じゃあ無理だ。
でもそこそこの術は披露出来るハズ。
そんなこんなで試験用紙を回収し終えた試験官アドン。教壇に戻ると、教室内の受験生らを見回す。
「筆記試験はこれにて終了。続いて実技試験を行う。受験生諸君は、私試験官アドンについてくるように」
アドン試験官の号令で、教室内の受験生は立ち上がる。
ざわつきが帰ってきて、受験生たちは試験の出来を移動ついでに話し始める。
「どうだった?」
「よそー以上にムズかったよな」
「僕は結構自信あり。けど……実技か」
「どうしよ、今になって間違いに気づいた。やばいどうしよ!」
そんな風に会話を行う受験生たちの群に混じり、先頭を往くアドンについていくオレ達。
しばらくイリスと下らない話をしながら、学舎を抜けて外に出る案内についていく。
やがて外に備えられた、クソデカい訓練場に着いた。グラウンド――って言うんだろうか、ヒトが何人並んで走ってもいいような――何百人も詰められそうな広さの庭(?)に、的用に案山子が置いてある。
「着いたぞ、訓練場だ。このルテリアス魔術学院の実技訓練の半分はここで行う。残り半分は実地演習だ」
そう紹介するアドンは、オレ達に見せつけるように手を広げて訓練場を見回した。
「ではここで、一人ずつ実際に魔法を行使してもらう。高等魔導学科の場合、最低二種類! 二つの系統の魔法を披露する事。魔導兵学科とは違い、一種類デカい攻撃魔法を撃てば良いというモノではない――とだけ言っておく」
そう言い終えたアドンは、一つ息を吐いてから「質問は?」と聞く。筆記試験の時と同じく、やはり答える者はいない。
「よろしい。では受験番号一番から開始する」
その宣告と共に、実技試験が始まった。
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