第3話 少女の夢と村長
私、イリス! 種族はハーフエルフ!
ヴァ……ヴェ……そう! ヴェールン王国にある、ちっさい村に住んでいるんだ!
「お父さん、私、魔術学院に行きたい!」
友達のミトラ君に魔法を教わって、私は魔法の学校に行きたくなった。
だからお父さんに話してみようと思う。
「……魔術学院?」
いつものように朝ご飯を食べていた私がそういうと、お父さんは目をパチクリとさせていた。
「そうか、学院か。……入れるのか? テストとか、あるんだろう?」
「あるよ! でも大丈夫! ミトラ君に教わってるし、バッチリ!」
一年くらい前から、私は幼馴染のミトラ君に魔法とかを教わっていた。
学院に行くという目的のため、私は日々ミトラ君と勉強しているのだ!
「……そうなのか。ミトラ君に感謝しないとな。でも、どうして学院に?」
「それはね、私、お母さんを探したいの!」
ミトラ君に魔法を教わって、学院があると聞かされた時から思いついた、私の夢。
物心ついた頃にはいなくなっていたお母さんを探し、会いたい。それが私の夢。
「魔導師になれば、色々な事が出来るんだって! だから私、魔導師になってお母さんを探す!」
「……」
お母さんを探すと言ってから、お父さんは懐かしむように私を見つめていた。
私が生まれてからすぐ、お母さんは出て行ってしまったらしい。
お父さん曰く、愛想つかされたとか、そういうのじゃなくて、旅に出たんだって。
お母さんは本物のエルフで、魔導師だったらしい。
魔導師は「ケンキュー」の為に、旅をするヒトも多いって、ミトラ君は言っていた。
「そっか、イリスも魔導師か。そうだな、母さんの子だもんな。ああ、いいだろう。イリス、魔術学院を目指しなさい」
「ホント!? やった!」
私の夢、それをお父さんに認められたのが嬉しくて飛び上がってしまう。
「それでイリス、学院に行くには金が必要だろう。いくらだ?」
「ミトラ君が言うには、『受験料、入学料、備品購入代金で、大体金貨二十枚』だって!」
私がミトラ君から聞いた事を教えると、お父さんは目をこれでもかと見開いた。
「金貨二十枚……そうか、だからか」
だけれどすぐに納得するように、うんうんと一人で頷き始める。そんなお父さんの様子に、私は小首を傾げた。
「どーしたの?」
「アイツから――母さんから金を渡されていてな。『イリスが使う時が来るやもしれない』って言っていたんだ。そうか、母さんは予期していたんだな、イリスが魔導師になりたがる事を」
そう言われて、私は目を輝かせた。そして思いを馳せる。
顔も見た事の無いお母さん。
私が魔導師になるって、分かっていたお母さん。
一体どんなヒトなのか、益々会いたくなったのでした。
「――ふーん、それで、お前の入学費用はどうにかなりそうなんだな」
私の目の前で木の幹に寄り掛かり、本を読んでいるのは黒猫の獣人。
大きくて綺麗な、でも凄く鋭い金色の目。
夜の空よりも黒くて綺麗な毛並み。顔には黒によく映える白い縞模様。
カワイイ猫の顔と、大きな耳。
細い尻尾は時折ヒョロっと動く。長いタテガミは、たまーに私が結んであげるんだ!
私の幼馴染、ミトラ君!
猫の獣人で可愛いからよく抱き締めるけど、怒らせると凄く怖いんだ!
「うん! お母さんがお金用意しておいてくれたんだ!」
「ふーん。そういえば、イリスの母親は魔導師なんだっけ」
「うん!」
「ふーん、オレも一回会ってみたいかも」
何気なくミトラ君がそういって、私はドキリと心臓が高鳴った。
え、お母さんに会いたいって、もしかしてもしかして、将来の為にご挨拶したいって事……?
「えへへ、まだ早いってばミトラ君。最初はさ、そのさ、えっと……」
「お前が何と勘違いしてるのか、手に取るように分かるぞイリス。言っておくが、違う」
違う――明確にそう言われ、私は肩を落とした。
「じゃあ何でさ!」
「エルフの魔導師なんだろ? 長い間研究した魔導師と会話して、色々話聞いたら面白そうだし」
「もう、ミトラ君って魔法ばっか!」
「そんな事ないぞ、イリス『で』――おっと、イリス『と』遊ぶのは楽しいし」
イリスと遊ぶのは楽しい。そう言われて、私は頬がニヤニヤと動くのを感じた。
「えへへ、そうなの? 嬉しいなぁ」
「ああ、嘘じゃない」
「もう、ミトラ君って素直じゃないなぁ」
嬉しくなって私はミトラ君に抱き着いた。フカフカとした毛並みが私を優しく迎えてくれる。あったかくて、いい匂いがする!
「おいやめろ。正面から抱き着くな。本が読めない」
「本じゃなくて私にかまってよ。私にかまって私にかまって!」
「うぜーこいつ」
嫌がって身を捩るミトラ君の頬に顔をギューと擦りつけていると、シュルリと抜けて逃げてしまう。
くっ、流石ネコの獣人。
「減るモノじゃないからいいのにー」
「いいのにー、じゃないでしょうが。なんでお前が減るかどうか決めんだよ。オレが決める側だろせめて」
「減るの?」
「いや、減らない」
「じゃあいいじゃん」
「良くない」
「もう! ケチ!」
そう言い返すと、「何かダルくなった」とか言って、村に戻り始める。
そんなミトラ君の背中を、私は慌てて追いかける。
「そ、そういえば、ミトラ君は学校のお金大丈夫なの?」
「まあ来年の受験までには、どうにかな」
そういうミトラ君の顔は、少しだけ悩まし気だった。
お父さんが言うには、金貨二十枚って凄く高いらしい。普通の村人には到底用意できない金額だって。
それをミトラ君が用意するのはきっと大変だ。
ミトラ君と一緒に学院に行きたいのに、入れなかったら嫌だなぁ。
「大丈夫?」
「ああ、問題は――」
無いって言おうとする前に、ミトラ君は足を止めた。
視線の先には、この村の村長がいた。
バッタリと、出くわしてしまった。村長に死ぬほど追いかけられて怖い思いをした私は、反射的にミトラ君の背中に隠れてしまう。
「……み、ミトラ……」
何故か村長はミトラ君を見て、引き攣ったように笑った。
「村長、こうして話すのは久しぶりだね」
あんな怖い様子で追っかけられたから私は凄くビビってるけど、ミトラ君は全然臆した感じもなく、にこやかに応じていた。
あー、そういえば、ミトラ君は昔村長のおうちに住んでた事があったんだっけ。だから仲いいのかな?
「そ、そうだったかの? う、うむ、元気そうで何よりじゃ」
「うん、村長も元気そうだね。でも身体に気を付けないと」
「あ、ああ……そういえば、お金がどうとか、言っておったな」
……え、話聞かれてたの?
思わぬ展開に私は胸中で少し驚いた。
「ああ……オレ、魔術学院に入ろうと思って、今勉強してるんだ。ついでに魔物狩りして、入学料を稼いでる」
「魔物狩り!? 初耳だよミトラ君!」
魔物狩りなんて危ない事してるの、本当に初耳だしヤバイ。
ミトラ君にもしもの事があったら、私一生泣く自信ある。
一年くらい前にも、私をイジメてきていたガキ大将みたいな子が、度胸試しに森に入って、魔物にぶち殺されてたらしいし。
それ聞いた時、ホントに怖かったんだ。あんな速度で石投げられる子でも、魔物に負けちゃうんだなぁって。
「そうじゃな、危険な事は良くない。……ミトラや、この後ワシの家に来なさい」
神妙な顔をしていた村長が、ミトラにそういって肩に手を置いた。
「うーん、分かった。すぐ行くよ。――ってワケだから、じゃあなイリス」
「うん、じゃあね!」
村長に連れられていくミトラ君を見送ってから、私は拳を握って奮起する。
入学ちゃんとできるように、勉強頑張ろう!
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