第13話:先客あり。

俺は裏社会の連中の取引の当日の夜、バイクにネルを乗せて取引現場に向かった。

まあ、取引が行われるのは決まって真夜中。


現場はたくさん建ってる港の倉庫街の、今は使われていない倉庫のひとつ。

目標は倉庫の入り口の上の壁に「三田村商会」って書いてあるらしい。


その倉庫を発見した俺はネルを下ろしてバイクのエンジンを切って倉庫の

勝手口まで押していった。

倉庫の勝手口には鍵がかかっていなくて、簡単に中に入れそうだった。


ネルと中に入ろうとしたら、向こうから車のライトが・・・。

見ると、一台の黒いワーゲンがやって来るのが見えた。

倉庫街のライトがいくつか点灯していたから黒いワーゲンだって夜でもよく

分かった。


ワーゲンは倉庫の少し向こう側の岸壁に止まると中から一人の男が出てきた。

その男が倉庫に近ずいて来たので俺とネルは倉庫の横の隙間に隠れた。

今、倉庫に入った男も裏社会の組織の一員なんだろうか?


俺たちも後に続こうと思ったら、また向こうからなにやらバイクの音が聞こえて

きた。

いや、あの甲高い音はスクーターだ・・・しかもベスパ?・・・レトロそうな

ベスパを運転してるのは女の子?・・・派手なメイドの衣装を着た子だった。


で、メイドの女の子だけかと思ったら、ベスパの後ろに男が乗っていた。

俺とあまり変わらなそうなニイちゃん。


メイドさんとニイちゃんが乗ったベスパはそのまま倉庫の前を通りすぎて止まると

ベスパから急いで降りて来て、さっきの男と同じように勝手口から倉庫の中に入って行った。


いったいどうなってる?

あんなに若い二人組が裏社会の組織の一員ってのはどうもな・・・。


「マサキなんか変じゃない?」


「そうだな、ちょっと状況が違う気がするな」

「これってただの闇取引とかじゃないんじゃないか?」

「でもまあ、いいや・・俺たちは詳細を見届けて頃合いを見計らって警察に連絡

すればいいだけなんだだから・・・」

「さ、俺たちも中に入ろう」


って勝手口から入ろうとしたら、一人、デカそうなおっさんと鉢合わせになった。


「なんだ、おまえら・・・」


「ヤバ・・・ネル下がれ・・・後ろに下がって」


「どうしたの?マサキ」


「さっそく見つかったみたいだ」


そいつは外に小便でもしようと出てきたところだったんだろう。

俺とネルを捕まえようと外に出てきた。

面倒臭いことになった。


「おまえら、ここでなにやってる?・・・ちょっとこ・・・」


って男が最後までしゃべり終わらないうちに勝手口から隣の倉庫の壁にぶち当たってぶっ倒れた。

俺はなにが起きたか分からず右往左往していた。


「マサキ片付いたよ」


ネルがそう言った。


「え、こいつ、ひとりでぶっ倒れたぞ?」


「違うよ、私がやっつけちゃったの」


え?・・・・ネルが?、おまえが倒したのか?」


「そうだよ」


「なんで?」


「分かんないけど・・・自然と体がやっつけちゃえって反応するの」

「さ、中に入ろう?」


「まじで?」


驚きだな・・・ネルだろ?・・・・なんでよ、なんでそんなに強いんだ?


首を傾げながら倉庫の中に入ったと同時くらいにピストルを撃ったみたいな

パンって音がした。

その模様が、こっちからも見えた。


そしたらさっきのメイドの女の子が見張り役だろう男をふたり、あっと言う間に

倒した。

めっちゃ強いメイド。

あんな子見たことないけど・・・。


ネルと言い、あのメイドの子といい・・・最近の女は強いんだな。


「マサキあまり奥まで入らないほうがいいよ」

「勝手口まで戻って様子見よ」


ネルにそう言われたから俺とネルは勝手口まで下がって様子を見ることにした。

なんかの取引って様子じゃない気がした。

それから15分くらいしてからだろうか?

ワーゲンの男とめちゃ強いメイドさんとベスパの後ろに乗っていたニイちゃん。

それと老人らしき人が奥から出てきた。


で、ワーゲンに乗ってきた男がどこかに電話をしていた。

話し声を聞いてると、ワーゲン男が連絡した相手はどうやら警察みたいだった。

なんだよ、俺より先に警察に連絡されちゃ俺の仕事がなくなるじゃないかよ。


文句あったけど俺のバイトだからって出て行くわけにもいかないし・・・。

それになにより俺たちは警察が来る前に逃げなきゃ。


「ネル帰るぞ・・・さっき見たことをジャンクショップのMに報告だけでもしとか

なきゃ・・・報酬もらえないからな」

なもんで、俺はまたネルをバイクに乗せてジャンクショップに向かった。


たしかに何かの闇取引なんかじゃない。

もっと複雑なことが起きてる気がした。


つづく。


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