第2話:ネルの脳殻。

《まあそうですけど・・・こういう場合は男性の方がなにかと力になって

くれるかと思って・・・》


「たしかにね、相手がガイノイドでも男はおネエちゃんの頼みに弱いからね」


《そんな呑気なことに関心してないで早く来て》


「へいへい、待ってな、すぐ行くから・・・」

「それで?・・・今、どこの廃棄処理場にいるの?君」


《私の居場所、スマホで指示するからその指示にしたがって来て》


「やっぱり俺が行くんだ・・・」


《はい・・・来てくれたらハグとチューしてあげるから》


「なにボケかましてるの?・・・今、脳殻だけでしょ・・・体もないくせに?」


《そのうち体を手に入れたらってことで、お預けしていいですか?》


「まあ、いいけど・・・とにかく指示通り行くよ」


《お願いします・・・早く来て》


脳だけじゃなくてちゃんと体もあるおネエちゃんに言われたいわ・・・早く〜って。


俺はネルの指示通り夜中になってから廃棄処分場にでかけた。

廃棄処分場は五棟あって会社のセキュリティーは彼女が一時的に解除して

くれていた。


そして三番目の棟の中にネルがいることが分かった。


無造作に放置され、山積みになった部品やら機材やらの中から捨てられた

ネルの丸い脳殻を見つけた。

光ってたので遠くからでもすぐ分かった。

たぶんチタン製なんだろう、虹色に輝く綺麗な脳殻だった。

そのシェルの中にネルの脳が入っている。


他にそれらしい脳殻が見つからなかったから、こいつだと思った。

で、念のためネルに聞いたら今、俺が腕に抱えてる脳殻がそうだって教えて

くれた。


俺は脳殻を抱えてすぐに廃棄処分場をあとにして急いでネルを俺の

レジデンス「一人用の生活スペース」に持ち帰った。


いいのかなこんなことして・・・でもあれだけたくさん放置された不燃ゴミ

の中から脳殻の一個くらいなくなっても誰も気づかないか。


さて彼女の丸い脳殻をそのままカーペットの上に転がしておくわけにもいかない

からスポーツショップに行って500円くらいのサッカーボールネットを買って

その中にネルの脳殻を入れて部屋のカベにつるした。


※脳殻について、ガイノイドの脳は金属のシェルに収められ「脳殻のうかく」と呼ばれる。

仮に脳殻を他の義体に入れ替えてしまえば他人になりすますことも可能となる。


壁に吊るした脳殻に話しかけても当然返事は返ってこないわけで体のない女と

スマホでやりとりすることになった。


ガイノイドの体がないってのは味気ないもんだな。

もし、ブスのガイノイドでも義体があってくれたほうがいいんだけど・・・。

姿のない女とスマホでコミニュケーションって変な感じ。


困るのはネルはスマホを起動してない時でも勝手に自分で俺のスマホを起動して

場所を選ばす俺に話しかけて来ることだった。


仕事してる最中だっておかまいなし・・・バイク屋の大将からスマホ切っとけ

って怒られるし、切っても意味ないし、しかもネルはやたらよくしゃべるんだ。


でもって、この時点でネルは俺のこと阿井さんじゃなくて、もうマサキ《まさき》って呼んでるし・・・。

ネルは人に慣れてる・・・元ガイノイドだった時は営業とか接客業とかしてたのかなって思った。

だけどな、いつまでもサッカーボールのままじゃ、まじつまんないよな。


つづく。


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