第9話 任務完了

会計を済ませて車に戻る。

「そういえば”タヌキの商店”て知ってます?」

佐々木さんが思い出したように聞いてくる。

「タヌキの商店?」

アオバはこじんまりとした八百屋さんのようなお店でタヌキが店員をしている姿をイメージする。

「多分イメージ通りなんですけど、タヌキがやってるお店なんです。」

「タヌキがお店を?」

何を言っているんだろうか。

四本足のあのタヌキにお店が出来るとは思えない。

「魔法生物のタヌキなんです。よくいる二ホンタヌキとかと違って化けダヌキの方です。人間に化けたりするタヌキ。そのタヌキ達がやってるお店が名前のまんまなタヌキの商店です。」

「えぇ・・魔法界すごい。・・・何を売っているんですか?」

「色々です。山菜とか虫よけとか。山歩き用のグッズも扱っているんですが、これがなかなか良いのが多くて評判なんです。陰陽師さん達はよく山に入ったりするんですけど、群馬だと特に多いので一度行ってみると良いと思います。」

佐々木さんはそう言いながら財布を取り出すと何やら小さな紙きれを取り出しアオバに差し出してきた。

「これ割引券です。ここからだとちょっと遠くてあまり行かないのでどうぞ。」

「いいんですか?ありがとうございます。」

受け取った紙切れにはタヌキの商店・500円引きの文字が印刷されていた。

「マツリさんに頼んで連れてってもらうといいですよ。浅間の方だったら結構近いと思うので。」

頭の中は?だらけだったが、とりあえず貰えるものは貰っとこう。

ちょっと面白そうではある。

二人はその後は他愛もない話をしつつ結界の現場へ向かった。


来た時と同じ位置に車を停めると、少し離れたところでマツリが作業しているのが見える。

やはり二本指で空中に模様を描いているようだ。

車内で少し待つと書き終わったのか二人の方へ歩いてくる。

「終わりましたか?」

車から降りて佐々木さんが大きめの声で聞いた。

「後は流すだけです!」

マツリは歩きながら大きな声で返すと、ふいに止まって結界の方を向いた。

その様子を見た佐々木さんは彼女の方へ向かっていく。

アオバもそれに続いた。

マツリの元へ行き結界側を見ると、色々な模様や文字が描かれている中でちょうどアオバの頭の高さくらいの位置に”止”の文字が白く光っていた。

マツリはおもむろにその”止”の上に右手を置くと、ッシュッシュとこすり払って文字を消してしまった。

すると、消したところを起点にじわじわと円形に透明の結界が広がってゆく。

全員、神妙な面持ちでそれを見守った。

遠くの端の方まで行き渡ったのを確認すると、マツリは大きく息を吐いた。

「よしっ!無事に終了です!」

にんまりとしたマツリが佐々木さんに報告する。

「ありがとうございます。ちょっと後ろの方から全体をチェックしますね。」

佐々木さんはそう言うと、二車線道路の反対側へピョンとジャンプして飛び越えた。

・・・ジャンプした?

そう、彼はジャンプして道を走る車もろとも飛び越えて行ったのだ。

しかもさらに先の電柱まで再びジャンプして、中ほどの高さに飛びつくとスルスルと登って結界を見渡してチェックし始めた。

「えっ!?ねえ!今佐々木さんめっちゃジャンプしなかった!?」

「そりゃ飛ぶよ。イナゴだもん。」

さも当たり前というような様子でマツリは答える。

「いやいやいや。だって見た目普通に人間だったじゃん?」

「お、キメラ族の見た目を普通の人間と言えるくらいに慣れたのねん♪いいこっちゃ♪」

「うん、なんかもう全然平気・・・じゃなくて!どういう事?」

さっきまで一緒にいた時は全く普通のおじさんだったのに、いきなり非現実なことをされてとても驚いてしまった。

「キメラ族ってのは見えないところであたしらとは結構違ってるの。イナゴ族は・・・何だったかなぁ・・・。確かバネみたいな・・・・えと・・・タンパク質だっけ?まあそんなのを体内で作ることが出来るからとかだった気がする。」

マツリの説明では全く分からなかったが、ともかく普通の人間とは体のつくりが違うということなのだろう。

今の今までキメラ族は見た目が違うだけと思っていたが、やはりキメラ族と分けて言われるだけの理由があるのだ。

アオバは驚いた表情のまま関心してしまった。

当の佐々木さんはというと、見渡して満足したようで再び電柱から飛び降りるとピョンピョンとこちらへ戻ってきた。

「ハァ・・ハァ・・・大丈夫ですね!ご苦労様でした。」

佐々木さんは少し息切れしている。

ちゃんとおじさんで少し安心した。

「では、我々はこれで失礼します。報告の方はこちらからもしますが村の方からも必要ですので、市の方へ簡単にメールで構いませんので入れといてください。」

「承知しました。ありがとうございました。アオバさんも頑張ってくださいね。」

「はい!今日はありがとうございました!」

二人は佐々木さんと別れ帰途についた。


マツリは運転席に乗り込むとふぅと大きく息をついた。

「あ~腹減った!コンビニ寄っていい?」

現在13時を少し過ぎたところ。

彼女はぶっ通しで作業をしていて昼食をとっていなかったようだ。

「いいよ~。あ、お昼のお金と領収書!」

アオバは思い出して財布を取り出そうとする。

「後ででいいよ。どこで食べたの?」

「豚魂ってとこ。」

「ああ!あそこか!美味しいよねぇ♪」

マツリは思い出しているのか顔が緩んだ。

「チャーシューも良いけどホルモンが美味しいんだよねぇ♪」

「ホルモン?えぇ・・それは食べなかった・・・。」

ホルモンは定食の中に入っていなかったので食べれていない。

しかも急ぎ気味に食べてしまったので、それも今になって悔しくなってきた。

「残念!でも大丈夫♪豚魂はネット通販してるからお肉はいつでも買えます♪」

「やったぁ!」

沈んだ心が一気に急浮上する。

「帰ったら早速注文しよ~っと。あ、そういえば佐々木さんからタヌキの商店の割引券貰ったの。」

タヌキの商店と聞くと、マツリはニヤアっと笑った。

「タヌキの商店かぁ。アオバの反応が楽しみだなぁ♪」

何だか少し嫌な予感がする。

「結構役に立つ物がたくさんあるから一度行ってみようか。ただ、明日は常桜殿に呼び出されたから行くとしたら明後日かな。」

常桜殿。

名前は何度も聞いていたが実際に行ったことはない。

「何しに行くの?」

「分かんない!いっつも呼び出した時に内容は教えてくんないんだよね~。」

マツリは慣れているのか特段大したことないような様子でいる。

「ふ~ん。常桜殿てどこにあるの?」

「鳥羽。」

「とば?」

「伊勢神宮の近く。三重県。」

「三重県!?新幹線で行くの!?」

皇室直轄とか宮内庁とか言っていたので、てっきり東京にあるもんだと思っていた。

三重県なんて意外だ。

マツリは笑い出した。

「新幹線なんて!そっかあ~、アオバはそうだよね~。じゃあ明日楽しみだね~♪」

アオバは笑っているマツリとは対照的に難しい顔をしている。

「え、新幹線じゃないの?じゃあどうやって行くの?」

「んー行けば分かる♪」

マツリの必殺技「~すれば分かる」は心配だ。

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